土地の売買・贈与・相続はどれがお得?徹底比較!
土地を他者に渡す場合に売買・贈与・相続の中でどれが一番自分自身の意図を反映した方法か知りたいという方は少なくないのではないでしょうか。
「売買」は金銭的な対価と引き換えに土地を有償で引き渡すことです。
一方受け取る側が対価を払わないのは土地の「贈与」か「相続」です。「贈与」は無償で土地の所有権を引き渡す行為です。相続は被相続人の死後に土地の所有権を無償で引き渡す行為です。「贈与」か「相続」はいずれも税金(贈与税または相続税)の支払いが義務付けられています。
土地を譲り渡す方と譲り受ける方のどちらもが出費することなく土地を渡すということは基本的にはできません。
この記事では売買・贈与・相続ついて説明しそれぞれに主にかかる税金について解説します。
売買と贈与の比較
売買は売主である不動産所有者が買主と売買契約を交わすことで成立します。対価は主に金銭です。一方贈与は不動産を無償で渡すことです。法律行為として贈与を成立させるためには贈与契約を成立させることが必要になります。
相続と贈与の比較
土地を売買する際にはそのタイミングは問われません。しかし土地の相続は土地の権利者(被相続人)が死亡した場合に相続人が無償で土地の権利を引き継ぎます。土地を無償で譲り渡す行為です。
例えば土地を持っていたH氏が亡くなり配偶者であるW氏がその土地の権利を無償で権利を引き継ぐ場合は相続にあたります。しかし土地を持つH氏が死亡していない場合は配偶者のW氏に土地を無償で譲り渡したとしても「相続」ではありません。それは贈与です。
支払うべき税金
土地を売買した時
土地を売買した時には土地を譲渡した側が土地を売却した際に発生した利益(譲渡所得)に対して課せられる税金である所得税・住民税を支払うことになります。2037年まで復興特別所得税が含まれます。
土地を贈与した時
原則として土地を受け取った側が贈与税を支払うことになります。
土地を相続したとき
相続税は被相続人から遺産を取得した方に相続人に課せられる税金です。相続税は相続した財産の金額が一定額(基礎控除額)を超えた場合に超えた部分にだけ課税されます。
贈与税の課税方法
贈与税の課税方法には大きく分けて2つあります。暦年課税制度と相続時精算課税制度です。受贈者は贈与者ごとに課税方法を選択することが可能です。
暦年課税制度
暦年課税制度では一人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対して贈与税がかかります。したがって1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。そしてこの場合には贈与税の申告は不要です。
相続時精算課税制度
相続時精算課税の制度とは原則として60歳以上の父母または祖父母から成人している子または孫に対し財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
相続時精算課税を選択した贈与者ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して20%の贈与税がかかります。
なおこの特別控除額は贈与税の期限内申告書を提出する場合のみ控除することができます。また前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります。
贈与者および受贈者間で一度この制度を選択すると暦年課税制度には戻ることができません。
所得税・住民税の計算方法
税率
土地についての所得税・住民税の課税方法は他の所得(例えば給与所得)と合算した所得に対して課税される総合課税ではなく他の所得と分離して課税される分離課税です。
所得税と住民税の税率は土地の所有期間が5年を超えるかどうかで大きく異なります。所有期間が5年以下は短期譲渡所得・5年超は長期譲渡所得となります。そしてそれぞれの所得税率と住民税率は以下の通りです。
短期譲渡所得(5年以下) | 長期譲渡所得(5年超) | |
---|---|---|
所得税率 | 30.63% | 15.315% |
住民税率 | 9% | 5% |
合計 | 39.63% | 20.315% |
所得税率には復興特別所得税率を含んでいます。
所得額
譲渡所得の金額は「収入金額-(取得費用+譲渡費用)-特別控除額(一定の場合)」で求めます。
収入金額とは土地を売却して得た金額のことです。取得費用は土地購入時にかかった費用のことで例えば購入代金・購入時に支払った仲介手数料などのことです。譲渡費用は土地売却にかかった費用のことで、売却時に支払った仲介手数料・印紙税などが含まれます。
土地についての所得税・住民税の計算方法
土地についての所得税・住民税は上記の式で求められる課税譲渡所得金額に税率を掛けて計算されます。
贈与税の計算方法
暦年課税
暦年課税ではその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計しその合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。次にその残りの金額に税率を掛け贈与税の金額を計算します。
贈与には一般贈与と特例贈与があります。
一般贈与(例えば兄弟間の贈与・夫婦間の贈与・親から子への贈与で子が未成年者の場合など)の税率は以下の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ‐ |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
一方、特例贈与とは贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において成人している者に限ります。)が直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与のことです。
特例贈与の税率は以下の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ‐ |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度を適用した場合の税額については、具体的な数値例を用いて説明します。
例)父と母から生前贈与を受け、父からの贈与について相続時精算課税を選択する
(1年目)
父から1,200万円・母から500万円の土地の贈与を受け父からの贈与について相続時精算課税を選択する。
(1)父からの贈与
<課税される金額>
1,200万円 - 1,200万円(特別控除額) = 0
<翌年以降に繰り越される特別控除額>
2,500万円 - 1,200万円 = 1,300万円
(2)母からの贈与
<課税される金額の計算>
母からの贈与については相続時精算課税を選択していませんので2,500万円の特別控除額ではなく、110万円の基礎控除額を受贈額より控除します。
500万円 - 110万円(基礎控除額) = 390万円
<贈与税額の計算>
390万円 × 20% - 10万円 = 58.5万円
(2年目)
父から1,100万円の土地の贈与を受ける
<課税される金額>
1,100万円 - 1,100万円(特別控除額) = 0
<翌年以降に繰り越される特別控除額の計算>
1,300万円 - 1,100万円 = 200万円
(3年目)
父から1,000万円の土地の贈与を受ける。
<課税される金額の計算>
1,000万円 - 200万円(特別控除額) = 800万円
<贈与税額の計算>
800万円 × 20%= 160万円
相続税の計算方法
相続が発生した場合でも相続財産のすべてに対して相続税が課されるわけではありません。下記の算式で求められる一定の非課税枠(基礎控除)があります。
基礎控除額=3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
土地の評価額が基礎控除の範囲内であれば相続税はかかりません。基礎控除を超えた場合でも超えた分(「課税遺産総額」)だけが課税対象です。
計算方法は次の通りです。
- 課税遺産総額を法定相続分で取得したと仮定して課税遺産総額を分ける
- 1に対してそれぞれ相続税率を乗じて相続税額を計算
- 2の相続税額を合計して相続税額全体を算出
- 3の相続税額全体を、実際に取得した財産の取得割合に応じて個々人の相続税を決定する
どれがお得なのかは総合的な判断が必要
ここまで見てきたように、土地の売買・贈与・相続では、それぞれについてかかる税金や納税者が異なります。また、土地を相続した方については3年以内に土地を売却すると所得税・住民税が少なくなる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の制度があります。今回の記事を参考にご自身が所有している土地について売買・贈与・相続の内のどれを行うべきか総合的にご判断いただければくと良いと思います。
土地を相続した方については3年以内に土地を売却すると所得税・住民税が少なくなる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の制度があります。それを含めて考慮して判断してください。