相続放棄とは?放棄をおすすめするケースや手続の流れ、相続財産の債務整理についても解説
故人が残した多額の借金の相続人になってしまった場合は、どうしたら良いでしょうか。
また、相続人同士の仲が悪く、熾烈な遺産争いが繰り広げられている場合でも、相続手続には参加しなければならないのでしょうか?
このような、相続にまつわる悩みを解決する手段として、「相続放棄」という選択肢があります。
返しきれないような多額の借金を、無理して相続する必要はありません。
また、不本意な遺産争いに無理して巻き込まれる必要もないのです。
本コラムでは、相続放棄の基礎知識や放棄をおすすめするケース、手続の流れ、相続財産の債務整理などについて、わかりやすく解説していきます。
相続放棄について詳しく知りたい方や、現在相続放棄するべきか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
相続放棄とは
「相続放棄」とは、被相続人が残した一切の財産を承継しない(相続権を放棄する)ことをいいます。
「被相続人」とは、亡くなった方のことです。
例えば父親が妻と一人息子を残して亡くなった場合は、父親が「被相続人」、妻と息子が「相続人」となります。
相続放棄をするには、法律で定められた期間内に、家庭裁判所に対してその旨の申述をする必要があります。「私は一切の相続権を放棄します」と家族や親族に宣言しただけでは、相続権がなくなることはありません。
なお、法律で定められた期間内とは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」(民法915条第1項)とされています。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、被相続人が亡くなったこと及び自分が相続人であることを知った時です。
相続放棄のメリットとして、まず借金や滞納税金などのマイナスの財産を相続しないですむ点が挙げられます。
また、2024年4月1日から相続登記が義務化され、違反者には罰則が科されるようになりますが、相続放棄をした人には登記義務は課されません。
一方、デメリットとしては、持ち家や土地、預貯金などのプラスの財産も相続できなくなる点が挙げられます。相続放棄された財産は、他の相続人が承継することになるのです。
相続放棄をおすすめするケース
ここでは、相続放棄をおすすめするケースについて見ていきましょう。
相続財産が債務超過状態になっているケース
相続放棄をおすすめする典型的なパターンは、預貯金や不動産などのプラスの財産よりも、借金や滞納税金などのマイナスの財産が上回っている(=債務超過状態になっている)ケースです。
債務超過状態の場合、プラスの財産をすべて借金の返済に充てても、なお負債が残ります。
そして、残った負債は、相続人が自らの負担で返済しなければなりません。
このようなケースでは、「たとえ借金を背負うことになっても、思い出のある実家を相続したい」などの事情がない限りは、相続放棄をした方が良いでしょう。
なお、プラス財産とマイナス財産のどちらが多いのか、よくわからない場合は「限定承認」するのも一つの方法です。
限定承認とは、プラスの相続財産の範囲内で、マイナスの財産を引き継ぐ方法です。
限定承認には、次のようなメリットがあります。
まず、プラスの財産のすべてを返済に充てても負債が残る場合は、残った負債を相続する必要はありません。
逆に、すべての負債を返済して、なおかつプラスの財産が残る場合はその財産は相続することができるのです。
一方、デメリットとしては、相続放棄はそれぞれの相続人が単独で手続できるのに対して、限定承認はすべての相続人が共同で手続しなければならない点が挙げられます。
相続人同士の意見が一致しなければ、限定承認はできないのです。
面倒な相続問題に関わりたくないケース
相続手続の難航が予想される場合に、面倒を避けるために相続放棄をするケースもあります。具体的には、以下のようなケースです。
- 相続人同士の仲が悪い
- 遺産分割の方法や割合で揉めている
- 遺言書の内容に不満がある相続人がいる
- 疎遠の親戚からの相続である
上記のようなケースで、「財産はいらないから、とにかく面倒な手続や相続人同士の争いには巻き込まれたくない」という場合は、相続放棄をおすすめします。
その他のケース
例えば、家業を継ぐ長男にすべての遺産を相続させる場合など、特定の相続人に遺産を集中させたい場合にも、相続放棄をおすすめします。
遺産分割協議でも、特定の相続人に遺産を集中させることはできます。
ただし、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、手続が煩雑になりますので、他の相続人の了承を得ているのであれば、相続放棄してもらうのが一番早くすみます。
その他、被相続人から生前に贈与を受けていた家族が、相続の辞退を望まれるケースもあります。このような場合にも、相続放棄をおすすめします。
相続放棄の流れ
ここでは、相続放棄の手続の流れを見てみましょう。
1)家庭裁判所に必要書類を提出する
相続放棄をするには、まず家庭裁判所に必要書類を提出します。
手続に必要な書類は以下の通りです。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
- その他の戸籍謄本(相続の状況により異なるものが必要)
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手(84円切手4~5枚程度)
相続放棄の必要書類の提出先は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
なお、相続放棄の必要書類は、郵送で提出することも可能です。
管轄裁判所の窓口が開いている平日の昼間に行く暇がない場合や、管轄裁判所が遠方にある場合などは、郵送での提出が便利です。
郵送方法には特に決まりはありませんが、裁判所から受領の連絡などは来ませんので、届いた証拠が残る書留などの方法で送った方が良いでしょう。
2)「照会書」が届くので回答の上返送する
必要書類を提出すると、家庭裁判所から「照会書」という書類が届きます。
照会書とは、家庭裁判所から申述人に対する質問状です。
具体的には、「自分が相続人になったことをいつ知ったか」、「申述は自分の意思によるものか」、「なぜ相続放棄をするのか」などの質問が書かれています。
照会書が届いたら、質問に回答の上、書類を返送しましょう。
なお、回答によっては申請が却下される場合もあります。
相続放棄が却下された場合、再度の申請は認められませんので、回答の際には十分な注意が必要です。
3)「相続放棄申述受理通知書」が届く
照会書への回答後、特に問題がなければ1週間から10日ほどで相続放棄が受理されます。
家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届けば手続は完了です。
なお、一度相続放棄が受理されると、原則撤回は認められません。
あとからプラスの財産が発覚して、やっぱり相続すれば良かったと後悔することのないように、事前に相続財産の調査はしっかり行いましょう。
また、「相続放棄申述受理証明書」は、主に相続登記の際に自分が相続人ではないことを証明するために使用するほか、借金の債権者に自分が債務を相続しなかったことを証明するためなどに使用されます。必要な場合には併せて請求しましょう。
相続財産の債務整理
相続財産が債務超過状態になっていても、「土地だけはどうしても相続したい」などの理由で、相続放棄を選択しないケースもあります。
このような場合でも、債務整理をすることで借金の負担を減らすことは可能です。
ただし、相続人が複数いる場合、借金は法定相続分の割合で各相続人に承継されますので、債務整理をするなら相続人全員でしなければ根本的な解決にはなりません。
ここでは、債務整理の3つの種類について見てみましょう。
任意整理
任意整理とは、裁判所などの公的機関を介さず、債権者との任意の交渉により、利息のカットや返済スケジュールの見直しを図る方法です。
通常の任意整理の交渉では、借金の将来利息と遅延損害金をカットしてもらい、残りの債務を3~5年かけて支払っていく返済案で、債権者と合意することを目指します。
任意整理のメリットとして、自己破産のように、持ち家や土地などの財産を手放す必要がない点が挙げられます。
また、他の2つの債務整理とは異なり、対象となる債務を自由に選ぶことができる点もメリットの一つです。例えば、保証人に迷惑をかけたくない場合は、保証人付きの借金だけを任意整理の対象から外すこともできるのです。
逆にデメリットとしては、他の債務整理と比較すると、債務の減額効果が低い点が挙げられます。
払い過ぎた利息(過払い金)があれば元金に充当しますので、債務が大きく減額されるケースもありますが、昨今では出資法や貸金業法などの法律が整備されたおかげで、過払い金が発生しているケースは多くはありません。
大きな減額を望むのなら、次に紹介する個人再生を検討した方が良いでしょう。
その他、すべての債務整理に共通するデメリットとして、債務整理をすると信用情報機関に事故情報が登録されるという点が挙げられます。
事故情報が登録されるとは、いわゆる「ブラックリストに載る」という状態のことで、一度事故情報が登録されると、以後5~10年間は新たな借り入れやクレジットカードの利用・発行等はできなくなります。
個人再生
個人再生とは、裁判所の認可を得ることで、税金や養育費等を除くすべての債務を5分の1~最大10分の1まで減額できる方法です。具体的に、どの程度借金が減額できるのかは、負債の総額や所有している財産の価値によって変わってきます。
個人再生のメリットとしては、自己破産のように持ち家や土地などの財産を手放す必要がない点や、任意整理よりも債務の減額幅が大きい点などが挙げられます。
逆にデメリットとしては、すべての債務が対象となりますので、例えば任意整理のように保証人付きの借金だけを手続から除外することはできません。
保証人がいる場合に個人再生をすると、請求は保証人にいくことになります。
自己破産
自己破産とは、裁判所の免責許可決定を得ることで、税金や養育費等を除くすべての債務を免除してもらう方法です。
自己破産には、すべての借金が免除されるという大きなメリットがある一方で、持ち家や土地などの高額の財産は換価処分された上で、債権者に分配(配当)されてしまうというデメリットもあります。
従って、「相続財産は債務超過状態だけど、どうしても土地を相続したいから、あえて相続放棄はしない」という選択をした場合に、自己破産をするメリットはありません。
この場合に自己破産をすると、土地を売却されて、結局相続できない可能性が高いからです。
また、自己破産は個人再生と同様に、すべての債務が対象となりますので、任意整理のように保証人付きの借金だけを手続から除外することはできません。
まとめ
本コラムでは、相続放棄の基礎知識や放棄をおすすめするケース、手続の流れ、相続財産の債務整理などについて、詳しく見てきました。
相続放棄には3か月の期間制限がありますので、早めに対応することが肝心です。
手続に不安を感じている方は、身近な街の法律家である司法書士に相談してみてはどうでしょうか。
当センターでは、相続問題に精通した経験豊富な司法書士が多数在籍しております。
相談は無料ですので、相続問題にお悩みの方は、ぜひお気軽にお電話ください。