「家族信託」とは?メリット、デメリットを詳しく解説
相続対策や親の老後問題を考えるにあたり、最近注目されているのが「家族信託」です。
信頼できる家族や親族など身近な人物に財産管理を任せることで、老後問題も含め様々な課題や問題の解決につなげることができます。
柔軟に運用できることから多方面での活用が期待できますが、メリットやデメリットについて理解しておかないと狙った効果を発揮できないこともあります。
本章では家族信託の基本的な仕組みを押さえ、メリット、デメリットについて詳しく解説していきますので参考になさってください。
家族信託とは?
家族信託とは、財産の管理や処分を信頼できる身近な家族や親族に任せる財産管理の一手法です。
自分の財産は自分で管理するのが基本ですが、認知症などで判断能力が衰えると財産管理を適切に行えないこともあります。
その場合、信託銀行などに財産を預けることもできますが、商事信託となるため結構な費用が発生します。
もし身近な家族、親族に財産を任せることができれば必ずしも費用は発生せず、信頼できる間柄ですから安心感もありますよね。
これを制度化したのが家族信託で、基本的な構造を確認すると家族信託では以下の登場人物が関係してきます。
①委託者 | 自分の財産を預ける(信託する)人のことです。 |
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②受託者 | 委託者から財産を預かる人のことです。 |
③受益者 | 信託された財産から生じる利益を享受する人のことです。 |
信託される財産の名義は便宜上、委託者から受託者に移りますが、以下で述べるように受託者固有の財産とは分けて管理されます。
例えば高齢で足が不自由になり預金出し入れの管理が面倒になった親が委託者となり、子を受託者として預金を信託したとします。
こうすることで子が預金を毎月一定額引き出し、受益者となる親に交付することで生活資金を届けることができます。
またアパート経営など不動産投資を行う親が高齢で判断能力に陰りが見えてきたようなケースでは、同じように不動産を信託財産として子に預け、不動産運用によって発生する家賃収入の管理を任せることなどもできます。
上の二例では受益者を親に設定することが想定されますが、必ずしも委託者と受益者を同一人物にする必要はありません。
孫や任意の第三者などを指定することもでき、この柔軟性から家族信託は様々な活用法が可能になっています。
家族信託のメリット
それでは家族信託のメリット面を確認していきます。
様々な運用法があるので、活用例を交えつつ見ていきましょう。
①認知症対策に使える
まずは上でも少し述べたように高齢者の認知症対策に有効だということです。
認知症になると本人は自分の財産を適切に管理できなくなり、詐欺などの被害にあいやすくなるほか、預金は凍結されてしまうので自由に利用できなくなります。
認知症になる前に預金を信託すれば、その名義が受託者に移るので自由な引き出しが可能です。
自宅などの不動産も本人が認知症だと売却が難しくなりますが、信託しておけば受託者が必要に応じて換価処分し、高齢者施設の入居費用に充てるなどの行動がとれます。
②親亡き後問題に対応できる
将来相続人となる者の中に障害を持つなどして財産管理が難しい人がいる場合、親が死去した後にその子が相続財産を適切に管理できず、散財や詐欺などの被害にあう危険があります。
財産の管理運用を信頼できる者に任せて、そこから生ずる利益だけを障害を持つ子に享受させたい場合も生前に家族信託を設定するのが有効です。
例えばですが親が委託者、信頼できる兄弟などの親族を受託者とし、障害を持つ子を受益者に設定します。
受託者が毎月預金を払い出し、生活費として受益者に交付することで散財や詐欺の被害を防ぐことができます。
③後継ぎ遺贈型受益者連続信託が使える
後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは、数世代後まで権利者の指定が可能な家族信託特有の機能のことです。
遺言書では次の一世代までしか遺産の権利について指示できませんが、家族信託では数世代後までの設定が可能で、例えば当初の受益者をAとし、Aが死亡した時には受益権をBに移転させ、Bが死亡したら同じように受益権をCに移転させるといった設定も可能です。
任意の者が死亡した際には信託を終了させ、残余財産の所有権を特定人に帰属させることもできます。
遺言ではこうしたことは不可能で、家族信託だけが有する特別な効力になります。
④倒産隔離機能がある
倒産隔離機能とは、信託財産が受託者の固有の財産とは切り離して管理され、万一受託者が破産したような場合でも、信託財産が守られる機能のことです。
受託者が破産すると、当人が所有する財産は債権者に配当として分配されますが、信託財産は倒産隔離機能により保護され、配当に回されずに済みます。
家族信託のデメリット
家族信託は万能ではなく、以下のようにいくつかのデメリットもあります。
①専門家が少ない
家族信託は柔軟な運用が可能な反面、実際の利用に際しては目的が正しく達成されるよう、また不利益が生じないように専門家の指導の下で進める必要があります。
しかし家族信託は新しい制度でまだ成熟していないこともあり、精通した専門家が少ないので相談先の選定に苦労するかもしれません。
②費用が高く付きがち
一般的に家族信託は成年後見など公的制度よりも費用がかかるとされています。
複雑な信託設計を立案するために専門家に支払う費用は数十万円から百万円を超えるケースもあり、他に信託財産の登記費用なども含めるとかなりの出費を伴うこともあります。
③節税作用は無く、損益通算もできない
家族信託は高齢者の場合、財産の所有者である受託者が体調不良や認知症などで判断が困難になっても、受託者が自分の判断で財産を管理・処分することができますが、直接的に相続税などの節税対策にはなりません。
特に不動産投資をしている場合、信託財産となった不動産は損益通算ができなくなるので、それまで自己財産として管理し損益通算ができていた場合は税金面では負担が増えることがあります。
④判断能力低下後は契約ができない
家族信託は契約をベースに運用されるので、委託者が高齢ですでに判断能力がかなり低下している場合、有効な契約を結べないので家族信託を利用することができません。
⑤身上監護権がない
身上監護権とは、本人の代わりに必要な契約などを手配し、住居の確保や施設への入所、入院の手配などを行える権利です。
家族信託はあくまで財産に関する管理運用を任せる契約であり、受託者は本人の身上監護に関しては権利を持てません。
身上監護が必要な場合、成年後見など他の制度でカバーする必要が出てくるでしょう。
⑥信託口口座(信託財産管理用口座)が開きにくい
家族信託は制度創設からまだ歴史が浅く、認知度も低いため金融機関でも家族信託がどのような制度なのか詳細まで理解している職員が少ないのが実情です。
そのため信託財産の管理に必要な信託口口座を開きたいと相談しても「当行では対応できません」と断られることや、たらい回しにされ話にならなかった、といった声も聞かれます。
まとめ
本章では「家族信託」の基本的な仕組みやメリット、デメリットを見てきました。
認知症対策や財産管理が難しい相続人がいるケースなどで積極的に検討される他、受益者連続信託など特有の機能を活用した信託設計が可能なので、使い方次第で様々な応用が利きます。
反面、精通した専門家が少なく、正しく運用しなければ思うような効果が得られない可能性、思わぬ不利益を生じる可能性があるので注意が必要です。
今後、知識や経験の浅い専門家やコンサルタントが誤った提案をすることも想定されます。
家族信託は、家族信託にしっかりと取り組んでいる専門家にご相談ください。
弁護士や司法書士、行政書士といった士業でも、必ずしも家族信託に精通しているとは限らないので、相談する相手が家族信託に詳しいかどうか個別に確認が必要です。
当センターでは家族信託専門士がおりますので、安心してご相談頂けます。家族信託専門士とは、一般社団法人家族信託普及協会が、「家族信託」の健全で適切な普及と安心できる制度の確立を実現するという想いから、専門家の育成をするために取り組んでいる認定制度です。
財産管理や相続対策などについて、ぜひお気軽にご相談頂ければ幸いです。