「成年後見」とは?メリット、デメリットを詳しく解説

以前、相続対策や親の老後問題への対応で近年注目されている「家族信託」についてお伝えさせて頂きました。
今回は同じく相続や老親の生活支援に利用できる制度として、成年後見制度について解説していきます。
メリットやデメリットを詳しく見ていきますので、ぜひ参考になさってください。

成年後見制度とは?

成年後見制度は「法定後見」と「任意後見」という二種類に大別されます。
「法定後見」は民法に根拠を持つ制度で、加齢や病気などによって判断能力が低下してしまった人を支援する、公的性質の強い制度です。
法定後見には「後見」「保佐」「補助」という三つの類型があり、支援を必要とする人の判断能力の低下度合いが強い場合に後見、中等度の場合に保佐、軽度の場合に補助と使い分けることができます。
本章では特に言及がない限り「後見」についての説明とさせて頂きますが、例えば重度の認知症であったり、事故にあって脳死となってしまったようなケースで利用されます。
後見では支援を受ける人が「被後見人」、支援する人が「後見人」となります。
後見人は包括的な代理権限を有し、被後見人に代わって各種の契約を締結するなどして生活を支援します。
また日用品の購入などごく身近なもの以外に関してなされた被後見人の行為について取り消せる権限もあり、これにより悪質商法などの被害を避けることもできます。
次に「任意後見」ですが、こちらは近年、といっても平成12年に新たに創設された制度です。
上で見た法定後見は、以前から制度的に硬直性が強く使いづらい面が多いことが指摘されていました。
当事者の実情を考慮した、より柔軟な支援体制を組みたいという要望が多くあったため、法定後見とは別に任意後見制度として制度化されたものです。
こちらも「任意後見契約に関する法律」に根拠を有するものですが、便宜上、古くからある民法に根拠を見る法定後見とは区別されるので、両者は別制度であることに留意しましょう。
法定後見が法的な「措置」であるのに対して、任意後見は「契約」によって必要な支援体制を組むことができるのが特徴です。
必要な支援内容は要支援者が自ら考え、支援する人(家族など信頼できる人物)と任意後見契約を結びます。
ただし、本人に適切な判断能力が無ければ有効な契約を結ぶことができません。
そのため任意後見契約は本人の判断能力が大きく低下する前に締結する必要があります。
判断能力があるうちに契約を締結しておき、将来判断能力が低下した時に裁判所で手続きを取り、契約を有効化して支援を実施することになります。
次に、法定後見、任意後見それぞれのメリットとデメリットを見ていきます。

法定後見のメリット

①本人の財産を守ることができる

適切な財産管理ができなくなった本人に代わって後見人が財産を管理できるため、本人による浪費はもちろん、親族など身近な者による使い込みを防ぐことができます。

②不当な契約を取り消すことができる

被後見人は適切な判断ができないため、悪質商法などの標的にされる恐れがあります。
本人が不用意に結んでしまった契約でも、後見人がこれを取り消すことができ、これにより本人を守ることができます。

③裁判所による監督機能が働く

後見人が適切に本人を支援できるよう、また後見人が悪事を働かないように裁判所による監督がなされます。
具体的には、後見事務の報告請求や財産目録の提出、後見事務の調査などをすることで後見人の仕事を監視します。
裁判所は必要な処分の命令も下すことができるので、法定後見は裁判所による強い介入を受けることになります。

法定後見のデメリット

①裁判所が関与するため柔軟な運用ができない

任意後見、あるいは家族信託制度と比べると、法定後見は裁判所が主導する運用となるため、強い関与を受けます。
そのため、必ずしも本人や身近な家族が望む運用ができないこともあります。

②財産の積極的な投資運用はできない

家族信託では支援者が本人の財産を原資にした投資など積極的な財産運用が可能ですが、法定後見では本人の財産を「守る」ことが主体となるため、積極的な投資などの運用はできません。
これは下で見る任意後見でも同様です。

③誰が後見人になるか分からない

法定後見を利用するには家庭裁判所で手続きをとることになり、その際に後見人を誰にしたいか希望を出すことはできます。
しかし最終的な判断は裁判官が決定するため、必ずしも希望する人になるとは限りません。
本人の財産が多いケースなどでは、弁護士や司法書士などの資格者が後見人に選任されることも多いです。

④後見監督人が選任されることがある

仮に後見人が身近な親族となる場合でも、後見人による財産の使い込みを防ぐなどの目的で「後見監督人」が選任されることもあります。
その場合、後見人は報告書を作成するなどして、後見監督人に必要な事務報告をしなければなりません。

⑤一度手続きをしたら止められない

例えば、上記④のように、後見監督人が選任されるなら法定後見は利用しません、など条件付きで手続きを進めることはできません。
一旦家庭裁判所に手続きを申し立てると、後は裁判所が主導して強制的に進められてしまいます。

⑥本人が死亡するまで費用がかかる

後見人や後見監督人には本人の財産から報酬の支払いがなされます。
金額は裁判所が決定し、基本的には被後見人が死亡するまでこれらの費用がかかり続けます。

任意後見のメリット

①任意後見人を自由に選べる

任意後見では後見事務を依頼する相手を本人が自由に選ぶことができます。
直接の支援を受ける相手が見知らぬ人物となるのが嫌な人も、家族など身近な人物を指定できます。

②希望する支援内容を設定できる

任意後見では本人が必要とする支援内容を個別に設定することができる自由度があります。
例えば銀行口座や金融資産の管理、不動産の売却、施設への入居契約、あるいは親族等への贈与契約の代理など幅広い事項について自由度の高い契約内容の設定が可能です。

③契約内容が登記される

任意後見契約は手続き上で必ず登記されます。
これにより任意後見人に選ばれた人の地位を外部に表示できるようになり、適切な後見事務の遂行が可能になります。
例えば親族から財産の使い込みを疑われても、任意後見事務の適切な遂行であることを主張できます。

任意後見のデメリット

①取消権は無い

法定後見と違って任意後見では本人がしてしまった不当な契約を取り消すことができません。
本人の判断能力の低下が激しく、悪質商法にかかってしまうような心配がある場合は法定後見の利用を検討する必要があります。

②任意後見開始のタイミングが難しい

任意後見を開始するには家庭裁判所で手続きをして任意後見契約を有効化する必要があります。
裁判所への申し立ては本人や配偶者、四親等内の親族、任意後見の受任予定者が行うことができますが、ケースによっては本人の判断能力の低下に気づくのが遅れることもあります。
本人は適切な判断ができないと任意後見開始の手続が取れませんし、配偶者がおらず、四親等内の親族や任意後見の受任予定者も近くに住んでいないなどで日ごろの様子を伺えないと、本人の判断能力の低下に気づけないこともあります。

③任意後見監督人の費用がかかる、裁判所が関与する

任意後見契約を有効化するには上記②の通り家庭裁判所で手続きを取りますが、この時必ず「任意後見監督人」が選任されます。
申立人は特定の人物を推薦することはできますが、最終的に誰が選ばれるかは裁判所に決定権があり、弁護士などの資格者が選ばれることもあります。
任意後見監督人は任意後見人の仕事を監督し、家庭裁判所に必要な報告を行うのが任務です。
任意後見人の報酬は任意後見契約において無報酬とすることもできますが、任意後見監督人には必ず報酬の支払いが必要で、額は裁判所が決定します。

まとめ

本章では「成年後見」とはどういうものか、メリット、デメリットなどを見てきました。
成年後見は法定後見と任意後見とに大別されるので、ケースに応じてどちらの利用がふさわしいか考えることになります。
利用を検討する際には必ず専門家に相談したうえで、どちらが適しているか吟味するようにしてください。

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