遺留分を侵害された!不公平な遺言書がみつかったときの対処法
御相談の内容
父親が亡くなり、長男として葬儀など取り仕切ったAさん。やっと一息ついたころ、Aさんは、弟Bさんから、父親の遺言書を見せられました。Aさんにとって、父親が遺言書を自分ではなくBさんに預けたことだけでも腹立たしいのに、遺言の内容は受け入れがたいものでした。遺言書は「1000万円の全財産をBに相続させる」と書かれていたのです。
Aさんの相談は
「自分は長男だし、すくなくとも遺産の半分の権利はありますよね?」
という内容でした。
Aさんの怒りはもっともですが、父親には自由に遺言を書く権利があります。ただし、遺言を書く人の自由と、法定相続人の権利を調整するための制度として、一定の人には「遺留分」が認められています。
そこで、Aさんには遺留分の正確な内容と、Bさんへの対処法をお伝えしました。遺留分に関して知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
遺留分とは
まず、法定相続分と遺留分の関係を理解しましょう。民法では法定相続人と法定相続分を定めていますが、法定相続分とは違う内容や、相続人以外に遺贈する遺言も有効です。先ほどのAさんとBさんの事例で考えてみましょう。
AさんとBさんの他に、法定相続人はいませんでした。このケースの場合、AさんもBさんも2分の1の割合の法定相続分を有します。子の法定相続分は、長男か次男かは関係ありません。
ところが、父親の遺言には、全財産をBさんに相続させる旨が書かれていました。このような遺言も有効です。Aさんが不満を述べなければ、Bさんが遺言通りに全財産を相続します。
しかし、Aさんには遺留分が認められているため、遺言に納得できなければ、AさんはBさんに対して遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分とは、一定の法定相続人に認められた最低限の取り分と考えていただくとよいでしょう。
遺留分が認められる相続人
遺留分が認められる一定の相続人とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者、子、直系尊属です。遺留分は、被相続人の兄弟姉妹には認められていませんので注意してください。被相続人の兄弟姉妹の子、つまり被相続人から見て甥・姪に当たる人にも、遺留分は認められません。
遺留分割合と計算方法
次に、遺留分割合を見てみましょう。
法定相続人 | 全体的遺留分割合 |
---|---|
配偶者のみ | 2分の1 |
配偶者と子 | 2分の1 |
子のみ | 2分の1 |
配偶者と直系尊属 | 2分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者が2分の1(兄弟姉妹には認められない) |
直系尊属のみ | 3分の1 |
兄弟姉妹のみ | 認められない |
具体的な遺留分の計算は、次の方法によります。
- 遺留分算出の基礎となる遺産の額に全体的遺留分を乗じる
- 1で算出した割合に、法定相続分を乗じる
先ほどのAさんのケースで計算してみましょう。
被相続人は、1,000万円の現金のほかには、他の財産や借金、生前贈与などはなかったとします。そうすると、遺留分算出の基礎となる遺産の額は1,000万円です。この1,000万円に全体的遺留分を乗じます。AさんとBさん(子のみ)のケースなので、全体的遺留分は2分の1です。この2分の1に、Aさんの法定相続分を乗じます。
1,000万円(遺留分算出の基礎)×2分の1(全体的遺留分)×2分の1(法定相続分)
=250万円(Aさんの具体的な遺留分額)
このケースで、父親の遺言がなければ、Aさんは1,000万円の2分の1である500万円の法定相続分を有していました。しかし、父親の遺言によりBさんに1,000万円の相続権があるので、Aさんは500万円の相続を主張することはできません。Aさんが主張できるのは、遺留分額である250万円を受け取る権利です。
つまり、遺留分は遺贈と法定相続分の調整のための制度なので、法定相続分よりも低くなるということです。
参考に法定相続分をまとめておきます。
配偶者 | 常に相続人となる |
---|---|
配偶者と子(第1順位) | 配偶者2分の1、子2分の1 |
配偶者と直系尊属(第2順位) | 配偶者3分の2、直系尊属3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹(第3順位) | 配偶者4分の3、子4分の1 |
遺留分侵害額請求の方法
次に、遺留分を侵害された人が、遺留分を主張する方法や注意点につき見ていきましょう。遺留分を侵害された人は「遺留分侵害額請求」という主張を、遺贈を受けた人に対して行います。この遺留分侵害額請求の方法は、口頭でも書面でもかまいません。ただし、いつ遺留分侵害額請求を行ったか、その内容などを明確にするために内容証明郵便の方法で行うことが望ましいとされています。
内容証明郵便とは、郵便局で定められた方式により作成する文書を郵便局に提出し、証明を受けた文書です。内容証明郵便は「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたか」について証明するものなので、法的な請求を行う際によく用いられています。
遺留分侵害額請求の相手方は、遺言により法定相続分よりも多く相続した人や、遺贈を受けた人、生前贈与を受けた人です。先ほどのケースで言えば、Aさんは、Bさんに対して、口頭または書面で遺留分侵害額請求をすることになります。
仮に、Bさんが任意の支払いに応じない場合は、遺留分侵害額請求の調停を家庭裁判所に申し立てることができます。遺留分侵害額請求の調停が整わない場合、遺留分侵害額請求の訴えに進みます。
この遺留分侵害額請求権は、一定の期間が経過すると消滅するので早めに行う必要があります。相続開始と遺留分侵害の事実を知った時から1年、または相続開始の時から1年経過してしまうと、遺留分侵害額請求をすることはできません。
遺留分侵害額請求で受けられるのは現金
また、遺留分侵害額請求は、遺留分額を現金で支払うよう求めることしかできません。例えば、先ほどの相談ケースで、遺産が1,000万円相当の不動産だったとしても、Aさんは、不動産の持分を主張することはできず、250万円の支払いをBさんに求める権利しか有しません。
このルールは、平成30年に民法が改正されたときにできたルールです。改正されるまで、遺留分権利者は遺産である不動産の持分を返してくれと主張できましたが、現在はできません。遺留分に関するルールが改正された理由は、遺産が不動産である場合に不都合が生じていたためです。不動産が特定の人に遺贈されたにもかかわらず、遺留分権利者に持分を主張されたのでは、不動産が共有の状態になってしまいます。共有不動産は、共有者全員の同意がなければ売却などの処分はできないことから、不動産を共有状態にすることは避けるべきです。そのため現在のように、遺留分侵害額請求は現金のみの支払いを求める権利とされました。
遺留分侵害額請求の対象となる行為と順番
遺留分侵害額請求の対象は、遺贈だけではありません。生前贈与、死因贈与も対象になります。また、遺留分侵害額請求の順番も決められています。
遺贈、死因贈与、生前贈与の順に、遺留分侵害額請求の対象となります。遺贈とは遺言による贈与、死因贈与とは贈与者の死亡によって効果が発生する贈与契約のことです。生前贈与は、文字通り被相続人が生前に行った贈与です。
生前贈与は本来、贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の自由ですから、遺留分侵害額請求の対象としては、最後となっています。ただし、生前贈与については、新しい贈与が先に遺留分侵害額請求の対象となり、それでも遺留分に足りない場合は、古い贈与が対象となります。また、生前贈与すべてが対象となるわけではなく、次のものに限られます。
- 生前贈与は、相続開始前の1年間にしたもの
- 相続人に対する生計の資本としての生前贈与の場合、相続開始前の10年間にしたもの
- 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った生前贈与で、相続開始前1年前の日より前にしたもの
何十年も前に受けた贈与まで対象となってしまってはたまりません。そこで、遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与は限定されているのです。
遺留分で争いにならない遺言
相談者Aさんの立場、Bさんの立場、父親の気持ちが交錯した結果が、今回のケースです。このような相談が自分亡きあと起こるかもしれません。また、相続財産の配分によっては、多額の相続税が発生する可能性もあります。法定相続分と遺留分、相続税、遺言者や家族の気持ちなどバランスよく尊重した遺言を遺すことが大切です。