「相続しておけばよかった」後悔の実話
こんにちは。
今回は私が経験をした案件で、お客様からの「事前に相談しておけばよかった」という声を皆様にお伝えさせていただきます。
人が死亡した瞬間に相続は開始します。
その相続とは亡くなった人(被相続人)の財産上(借金などのマイナスの財産も含む)の権利義務を被相続人と一定の身分関係にある特定の人(相続人)に包括的に承継させることをいいます。
財産は相続するが借金は相続しない、という選択的相続は認められていません。
しかし、相続人には相続しない自由が認められています。
ただ、あまり長い期間、相続財産を放置しておくことは望ましいことではありません。
相続が開始し自分が相続人であると知った時から3ヶ月以内に相続するかしないかを決めなくてはいけません。
この熟慮期間が経過すれば、自動的に相続を承認したことになるので注意が必要です。
先祖代々の土地だから・・・ケース1
お客さんから家の名義を居住している相続人の名義に変えたいという電話がありました。
その日の夕方、依頼人のところに訪問し、もうすこし詳しく事情を聞きました。
土地・建物は祖父名義です。
その祖父も昭和40年に亡くなっているということでした。
私は、遺言書など相続に関係するものが残っていないか聞きました。
遺言書があれば、遺言書に書かれている内容が法律に優先します。
遺言書がない場合に備えて、法律で血族相続人の範囲と相続割合を定めています。
このことを法定相続といいます。
具体的に相続人になるのは、第1順位は子、第2順位は親、第3順位は兄弟姉妹です。
第1順位の子がいない場合、第2順位の親が相続人になります。
第3順位の兄弟姉妹が相続するのは、第1順位及び第2順位の相続人がいないときです。
配偶者は常に相続人になります。
血族相続人がいるときはその者と同順位で相続人になります。
但し、配偶者の相続割合は、血族相続人の順位により変わります。
遺言書等はないというので、祖父の相続人を調査し特定しなければなりません。
特定方法は、戸籍類の調査です。
祖父の出生から死亡までの沿革のとれる戸籍類を取得し、相続人を特定します。
次に特定した相続人の戸籍類を取得し調査します。
調査の結果、相続人も既に亡くなっていました。
この場合、祖父が亡くなった後か前かで特定する相続人に違いがあります。
祖父が亡くなる前に相続人が亡くなっている場合は、代襲相続といって、その者の子供(祖父からすれば孫)が代わりに相続人になるので注意が必要です。
何代にもわたり相続が発生しているこのケースでは、相続人を特定するまで根気よく戸籍類を取り寄せ調査するしか方法はありません。
調査の結果、相続人は80数名存在し、あまりの多さに茫然となりました。
まず、各相続人に通知し協力の有無を確認することから始めます。
その前に今後予想される問題と対応について依頼人に話をしました。
相続人の人数が多いので、人数を減らすための手続きが必要です。
その手続きというのは、相続放棄や相続分を譲渡することです。
相続放棄は、家庭裁判所が関与する手続きなので申立てに時間や手数料がかかります。
相続放棄の効果は、最初から相続人でなかったことになります。
そのため相続人には心理的な抵抗を与えることになります。
相続分の譲渡は、他の相続人に自分の相続分を譲渡することです。
有償と無償がありますが、有償譲渡の場合はお金を支払う必要があります。
その後、現在住んでいる相続人の名義にするには話し合いが必要になります。
この話し合いを遺産分割協議といいますが、相続人全員の参加が必要です。
遺産分割協議書には、協議に参加した相続人全員が署名(記名)し、実印を押印し印鑑証明書の添付が必要になります。
遺産分割協議に参加する相続人には、意思能力(協議の内容を理解し、結果を判断できる能力)が必要です。
意思能力が相当程度低下(重度認知症患者等)している相続人がいる場合は、後見制度を利用し後見人が相続人を代行して遺産分割協議に参加します。
後見制度も家庭裁判所が関与します。
申立てに時間や手数料がかかるのは相続放棄と同じです。
遺産分割協議のためだけに後見制度を利用しても、いったん後見が開始すれば、遺産分割協議が終了しても、後見は終了しません。
本人の意思能力が回復するか本人が亡くなるまで続きます。
本人の資産状況にもよりますが、後見人には通常、報酬を支払わなければなりません。
以上のことをお伝えしました。
依頼人は、名義を変えるだけの手続きがこんな大変なことになるとは思ってもみなかった、
きちんと相続登記をしておけばよかったと後悔されていました。
2016年の調査で所有者不明の土地の面積が九州の面積を超えています。
法務省は、相続登記がされずに放置されている土地の解消策として、相続登記を義務化する関連法案を今国会に提出できるよう目指しています。
相続登記は、現在は義務ではありません。
しかし、相続開始から時間が経てば経つほどすぐにできないのも相続登記です。
お亡くなりになった方の名義のままご売却したり、担保にして金融機関からお金を借りたりすることはできません。
緊急を要するときに困らないように余裕をもって相続登記はしたいものです。
順番通りとは限らない。・・・ケース2
無料相談に来られたBさんの話です。
Bさんの相談事は、自宅の相続に関することでした。
Aさんと奥さんのBさんは自宅の1階で生活しています。
2階には長男家族(妻と子供1人)が生活しています。
高齢のAさん夫婦にとって長男がそばにいてくれるのは安心です。
長男も親と一緒にいれれば安心ですし、何より経済的にも負担は少なくてすみます。
こうしてお互いの利害が一致し、同居することになったそうです。
自宅(土地・建物)の名義はAさんです。
同居を始めて5年が過ぎた時、Aさんが亡くなりました。
Aさんは遺言書を残されていらっしゃらなかったので法定相続人であるBさんと長男で遺産分けの話し合いをしました。
長男が、お母さん(B)が財産全部を相続すればいいよ、と言ってくれました。
しかし、自宅を私の名義にしても先に亡くなるのだから、あまり意味がない。
私が死んだときにまた長男名義に相続登記をするのはお金がもったいない。
長男名義にしておけば相続登記が1回分節約できる。
そう考えて自宅を長男名義にすることに決めました。
しかし、数年後に長男がBさんより先に亡くなってしまいました。
Bさんは、長男が先に亡くなるなんて全く考えていませんでした。
順番通り亡くなると思って長男名義にした自宅はどうなるのか。
Bさんが一番相談したいことです。
長男の相続に関しては第1順位の子供と配偶者が相続人になります。
Bさんは第2順位なので相続人になりません。
今、Bさんは他人の家に無償で住まわせてもらっていることになります。
仲がよければ問題ないですが、嫁にとってBさんはやはり姑です。
嫁・姑問題で仲が悪くなり、嫁に出て行ってくれといわれれば出ていくしかありません。
Bさんは黙って聞いていましたが、万が一のことを考えて財産全部を相続しておけばよかったと後悔されていました。
昨年4月1日に相続法が改正されました。
高齢の配偶者を保護するため配偶者居住権という新たな権利が創設されました。
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合、遺産分割協議において、自宅を子供に相続させても配偶者が配偶者居住権を取得することにより、終身の間その建物に無償で居住することができます。
この配偶者居住権は登記することができます。
登記をすれば、他人名義になっても堂々と住み続けることができます。
相続手続きは家庭により事情が変わります。
一度きりの相続手続き、失敗しないためにも事前に経験豊富な専門家にご相談ください。