亡き夫、亡き妻が家族に残せる言葉(準備)
「相続」というとどのようなイメージを持たれるでしょうか。
50代や60代の人にとってはそろそろそんな事も考えていかないと・・・と思われる方も多いかと思います。お父様やお母様、配偶者、そして自身の万が一に備え、準備を進めていきたい。そんな相談が増えていると聞きます。
一方、今後増えることが予測されている相続案件に対応する為、法整備も進められています。
令和6年4月1日より相続登記が義務化され、これまでは努力義務だった相続登記ですが相続を知ってから3年以内に相続登記を行わなければ10万円の過料もしくは罰金が科せられます。当然、相続を使った税金逃れを防ぐため、税務署のチェックもこれまで以上に厳しくなると予想されています。
本記事では相続する可能性がある50~60代の方向けに、相続の基本的な仕組みと準備のポイントについて解説したいと思います。
相続の基本的な仕組み(法定相続人)
相続は相続人と被相続人に分けられます。被相続人とは、御逝去された方を指します。相続人は「相続する人」です。まずは誰が相続人となるかを知っておきましょう。
キホン1:配偶者(夫、妻)は100%相続人!
配偶者は必ず相続人になります。しかも後述する配偶者控除という税制優遇を受けることができ、課税対象額の1.6億までは最低免除となります。
キホン2:配偶者(夫、妻)+子供の場合
この場合は配偶者も子供も対象になりますが、子供が一人だと配偶者と1/2:1/2となりますが、子供が2人の場合配偶者:子供A:子供B=1/2:1/4:1/4となります。子供が先に亡くなっており子供がいる場合(被相続人から見て孫)、その子供が亡くなった親の配分を受け継ぐことになります。
キホン3:配偶者+子供がいない場合
人口減少が問題となっている日本では、今後こういった家族構成が増えてくると思われます。この場合だと、被相続人の御両親が御存命かどうか、兄弟姉妹(けいていしまい)がいるかどうかで変わってきます。
御両親が御存命の場合:配偶者と御両親が相続人となり、割合は配偶者2/3、御両親1/3となります。御両親がお二人とも御存命であれば1/6になります。
御両親が亡くなっており兄弟姉妹がいる場合、割合は配偶者3/4、兄弟姉妹1/4となります。
キホン4:配偶者がいない場合は子供、御両親、兄弟姉妹の順番で配分
このケースは非常に多いです。夫が亡くなり妻と子供が相続。そして妻が亡くなり子供が相続。というケースですね。
この場合だと、子供がいれば子供の数で按分。いなければ御両親が按分。いなければ兄弟姉妹で按分となります。
相続の基本的な仕組み(相続税の控除)
次は相続税の控除についてです。此方については覚えることは二つだけとなります。
- 3,000万円+法定相続人×600万円が基礎控除
- 配偶者は1.6億円まで控除される
例えば妻と子供2人の家族構成だった場合、3,000万円+600万円×3=4,800万円が基礎控除となります。全体の課税額から基礎控除を差し引き、法定割合で按分したのが相続税となります。ただし、配偶者については按分後の相続税からさらに1.6億控除することができます。
相続の準備
さて、ここまで相続の基本について解説してきました。ここからは具体的にどんな準備が必要なのかを解説いたします。
相続において重要な準備とは、
- 課税額を知る
- 資産の在りかを知る
- 相続人全員が分配内容に合意する
この3項目になります。
この3項目を全て網羅する為に、「エンディングノート」の作成が推奨されています。
【準備1】エンディングノートの作成
エンディングノートという書類は聞かれたことがありますでしょうか。相続で大変な項目に財産把握を挙げましたが、万が一被相続人が読み書きができない状態になってしまった場合、御逝去前に資産把握をすることは極めて困難になります。
そうならないよう、エンディングノートという書面に財産をまとめておくという対策が有効です。
似たような書類で遺言書がありますが、効力を発揮させるには書き方が限定される遺言書とは違い、エンディングノートは自由に記載できるのが特徴です。
時間がある時に少しづつ書き留めていくのが良いでしょう。
具体的に記載する内容は、以下のような事柄を書き留めてください。
- 自分の生年月日や身分証明書類のコピーと原本保管場所
- クレジットや銀行カードの保管場所と暗証番号のヒント(関係者のみ理解できる場合)
- かかりつけの病院名と担当者
- お葬式の希望(喪主を誰にするのか、葬儀に読んで欲しい人等)
- 御逝去時に連絡をする人のリストと連絡先
- 自身が遺産をどのようにして欲しいか
遺言書は主に財産分与の方法や財産の処分方法について本人の意向が記載されるのに対し、エンディングノートは財産把握をスムーズに行うために必要な情報を記載しておく書類になります。
このノートに書いてあることには法的効力はなく、重要な情報が記載されている日記のようなものです。そのため、色々な人の相談に乗りながら書き残すことができます。
エンディングノートのもう一つの特徴として、「終活」の準備を始める心構えができるようになるという点があります。ノートに記載する際に、御家族と相続について話し合うことが増えるかと思います。残念ながら相続で揉めてしまうケースの多くは、お互いの情報交換が足りないことが殆どです。
「自分はこうしたかった」
「こうなるならもっと前にこうして欲しかった」
「争続」となってしまったケースの相続人からは、このような御言葉を聞きます。
被相続人にとっても相続人にとっても、ある時期になればエンディングノートを中心において思い出話と共に書き進めていく。そんな時間をもつことが大事です。
【準備2】相続割合を決める
エンディングノートが大体書き終わると、財産がおおまかに把握できるようになります。
財産が把握できると次は相続割合の決定です。これが二大項目のもう一つになります。
司法書士に依頼すると戸籍から正確な法的相続人が把握できるようになります。
そこで、誰にどのくらい相続させるのかを決めましょう。
ここでの目的は、全員が納得のいく相続割合になる書類を作成し、サインをすることです。
この書類を、遺産分割協議書と言います。
これは余談ですが、「知らない相続人がいた」というケースが全体の10%ほどあると言われています。家族が全く知らない兄弟がいた、というケースです。そのことは本人が後ろめたさから言わない場合も本当に忘れていた場合もあります。
せっかく決めた遺産分割を、後から横槍入れられないためにも法令相続人は正確に把握することが大事です。
相続割合の基本となるのが、法定相続分です。例えば父、母、子供2人という家族構成で父が被相続人の場合、母が1/2、子供がそれぞれ1/4となります。家族構成によって法定相続分は変わる為、詳細は国税庁のHPで御確認ください。
(国税庁No.4132 相続人の範囲と法廷相続分
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm)
まずはこの割合で分けることが最もトラブルが少ないです。ただし、被相続人から個別に資産の贈与があった、被相続人を介護していた、被相続人に借金があった等のケースだと法定相続分で分ける方がトラブルになることもあります。
例えで説明すると、
- 子供の一人が被相続人である父から沢山の住宅購入資金を援助されていた。
- 子供の配偶者が被相続人を介護しており、介護費用も負担していた。
- 被相続人は多額の借金があり、有形資産を売却しなければ借金も相続することになる。
このようなケースが考えられます。
不利益な相続を法定相続しないようにする為、相続放棄や限定相続といった方法を取ることもできます。しかし、相続を一切しない相続放棄や、借金は相続しないけれども財産だけ相続するといった限定相続には相続人全員での話し合いが不可欠です。
相続は相続が発生することを知った日、つまり被相続人が亡くなった日から3ヶ月以内に内容を決める必要があります。相続人が2~3人であればすぐに遺産分割協議が完了するかもしれませんが、司法書士の調査により沢山の相続人がいた場合、3ヶ月以内に白紙ベースから協議をまとめるのは難しくなります。
そして、残念ながらお金が絡むと人間関係が崩れるケースも少なからずあります。
そうならない為にも、早めの遺産分割協議を進めていきましょう。
【準備3】相続対策が万全であることを被相続人含めて確認する
相続において財産把握とその分割がまとまれば、特に揉めることはありません。
だからこそ、この先必ず訪れる別れのタイミングまで、被相続人と相続人がお互いに円満な人間関係を構築できるよう努力していく必要があります。
支えあってきた家族が相続手続きによってバラバラになってしまったり、納得のいかない遺産分割になってしまい、相続人の家族から文句を言われたり…。
“財産分与が終わったのでもうこの家族とは関係ない。”
人生残り少ない最後に自分の財産のせいで家族がバラバラになってしまうことは避けるべきではないでしょうか。このような終わり方になる可能性を残してしまい、結局「争う相続」になった方もいらっしゃいます。
そうならないために、相続の最後の準備として、「これからも家族みんなで支えあっていく」という姿を被相続人になる人に見せてあげることが大切です。
最後に
相続は一生に何度も経験することではありません。
また、家庭により状況は様々なため、家族の数だけ相続の形があります。
その為、何も準備をせずに相続人になってしまうととても大変な作業になってしまいます。色々な書類を取り寄せて、法定相続人全員に署名押印をもらったり相談したり。
それらをお葬式の準備やお墓の準備と同時進行で進めなければなりません。
日常生活にも大きな支障が出てしまいます。
人は別れ方が一番印象に残ると言われています。
亡き夫や亡き妻との大切な思い出や言葉は一生大事にしていきたいですよね。
そのためにも、相続という「準備」は家族全員で取組み、「ありがとう」という感謝の言葉を伝えあえる。そんなひとときにしていきましょう。