相続における遺産整理について解説
遺産整理とは、被相続人が遺した相続財産(遺産)を洗い出し、各相続人に特定の遺産を割り当てて、各種の相続手続を行うことです。
遺言書がある場合は、遺言書の内容が優先されるので、どの相続人にどの財産が割り当てられるのかが決まります。
しかし、複数人の相続人が存在する場合で、遺言書がない場合、遺言書があっても遺言書に記載されていない遺産がある場合や分け方が決まっていない場合は、遺産分割協議が必要になります。
遺産分割協議がまとまれば、それに従って遺産の行き先が決まります。
さらに、遺産分割の協議がまとまらない場合には、遺産分割調停又は審判の手続を利用することになります。
以下においては、相続における遺産整理に必要な遺言書の確認、相続人の確定、相続財産の範囲の確定、遺産分割協議、遺産分割調停又は審判、遺産整理としての各種の相続手続などについて、順次、解説することとします。
遺言書の確認
被相続人が遺言書で、どの相続人にどの財産を割り当てるのかを決めていれば、自ずと被相続人の財産を取得できる相続人が確定されます。遺留分を侵害された相続人は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。
したがって、遺産整理のためには、遺言書の有無を確認しなければなりません。
遺言書は、被相続人の自宅を捜したりするほか、公証人立会いのもとで貸金庫の開被点検をしたり、自筆証書遺言に係る遺言書の法務局における保管の有無を調べたり、公証役場の遺言検索システムによる調査依頼をしたりして、その有無を確認します。
なお、法務局において保管された自筆証書遺言書及び公正証書遺言以外の遺言書が発見された場合は、家庭裁判所に検認の申立てをする必要があります。
相続人の確定
遺言書がない場合、遺言書があっても遺言書に記載されていない遺産がある場合等の場合は、全ての相続人による遺産分割協議により、どの相続人にどの財産を割り当てるか決める必要があるので、相続人を確定しなければなりません。
必要な書類としては、①被相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸除籍謄本、②被相続人の住民票の除票、③相続人全員の現在の戸籍謄抄本、④相続人全員の住民票記載事項証明書(住民票の写し)、⑤被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合は、被相続人の父母の出生から亡くなるまでの連続した戸除籍謄本などの書類を収集します(取得先は自治体の窓口)。
また、相続人が複数人存在したり、相続関係が複雑になったりする場合には、相続関係説明図を作成し、被相続人と相続人との関係を明らかにする必要があります。
相続人については、単純承認、限定承認、相続放棄の意思を確認します。また、限定承認をしようとする者及び相続放棄をしようとする者は、相続開始を知った時から3か月以内に、家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません。
以上の調査を経て、相続人を確定します。相続人には優先順位(第1順位は子又は子の代襲者、第2順位は直系尊属、第3順位は兄弟姉妹又は兄弟姉妹の代襲者)があり、その順位に従い配偶者と共に相続人になります。なお、子の代襲は何代でも代襲されますが、兄弟姉妹の代襲は1代限りですので、注意が必要です。
相続財産の範囲の確定
次に、相続財産(遺産)の範囲を確定する必要があります。
相続財産については、①登記簿謄本、②固定資産評価証明書、③借地借家に関する契約書の写し、④預貯金の通帳の写し又は相続開始時の残高証明書の写し、⑤株式、社債、国債、投資信託等の内容を示す文書の写しなどを収集して調査します。
相続財産には、以下のような積極(プラスの)財産と消極(マイナスの)財産があります。
プラスの財産 | 土地(宅地、農地、山林)、借地権、建物、借家権 現金、預貯金 小切手、有価証券(株式、社債、国債、投資信託等) 知的財産権(特許権、著作権、電話加入権、営業権等) その他の動産(自動車、船舶、家具・什器・備品、書画・骨とう・美術品、貴金属、衣類等) 生命保険金請求権(被相続人を受取人とする場合) など金銭的価値のあるすべてが含まれます |
---|---|
マイナスの財産 | 借金、住宅ローン残高、自動車ローン残高、買掛金、未払い金、保証債務、税金(所得税・住民税・固定資産税等)、損害賠償債務など |
なお、被相続人の一身専属に属するもの及び祭祀財産は、相続財産に属しません。
以上の調査を経て、財産目録を作成し、相続財産の範囲を確定します。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、被相続人が残した財産(遺産)について、相続人の間で協議して具体的に分ける手続です。
遺産分割の対象となる財産の確定
遺産分割協議をするためには、遺産分割の対象となる財産を確定する必要があります。
遺産分割の対象となる財産は、相続開始時に被相続人の財産に属していた権利義務のうち、遺産分割時においても、相続人の共有関係にあるもので、現に存在する未分割の積極財産です。
土地、建物、現金、預貯金(債権)、借地権、株式、国債、投資信託は、当然に遺産分割の対象となる財産です。
なお、預貯金(債権)以外の可分債権(損害賠償請求権、賃料請求権、報酬請求権等の金銭債権)及び可分債務は、相続開始と同時に当然に分割され、各相続人に帰属するので、遺産分割の対象となる財産ではありません(可分債権については、合意があれば遺産分割の対象にできます)。
なお、生命保険金請求権(相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合)は当該受取人固有の財産、死亡退職金及び遺族給付金は受取人固有の権利なので、いずれも相続財産に属しません。
ところで、預貯金(債権)については、可分債権として扱うのではなく、遺産分割の対象となる財産になります。
さらに、遺産分割前に処分された財産についても、共同相続人全員の同意によって遺産分割時に存在するものとみなして遺産分割の対象財産とするものと、一部の共同相続人が遺産分割前に当該処分をした場合には、遺産分割時に当該処分をした財産を遺産に含めることについて、当該処分をした共同相続人の同意がなくとも、他の共同相続人の同意さえあれば、これを遺産分割の対象として含めることができるものを、遺産分割前に処分された財産について遺産分割の対象となる財産にできるとしています。
以上から、遺産分割の対象となる財産を確定します。
遺産分割の対象となる財産の評価
遺産分割は、被相続人の積極財産を具体的相続分に応じて、相続人に公平かつ適正に分配する手続ですから、その前提として、遺産整理のためには、遺産分割の対象となる積極財産の経済価値を評価する必要があります。
預貯金や現金など評価額の明確なものは別にして、遺産分割の対象となる財産についての評価額、評価方法、評価の基準時などについては、基本的に当事者の合意が重視されます。
そして、不動産の場合、基本的には、当事者の合意で決められた金額に基づいて処理することになります。金額を決める方法の例として、固定資産税評価額、相続税評価額(いわゆる路線価)、地価公示価額及び不動産業者による査定額などがあります。
遺産分割協議の参加者
遺産分割協議を行うためには、相続人全員が参加する必要があります。
遺産分割協議の当事者が1人でも欠けた場合には、遺産分割協議は無効になります。
相続人の中に行方不明者がいる場合は、行方不明者のために、不在者財産管理人を選任する手続が必要です。
また、相続人の中に未成年者がいる場合は、親権者が法定代理人として遺産分割協議に参加することになります。しかし、親権者と未成年者ともども相続人になる場合や、同じ親権者を持つ複数の未成年者が相続人になる場合には、利益が相反することから、未成年者のために、特別代理人を選任する手続が必要となる可能性があります。
さらに、相続人の中に認知症などにより判断能力が十分でない者がいる場合は、判断能力の程度に応じて、成年後見人、保佐人又は補助人を選任する手続が必要です。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議に参加した者は、遺産総額を踏まえ、法定相続分を勘案し、遺産の分割を受ける者の取得額を算出するなどして、誰にどの財産を割り当てるかを協議して決めます。
遺産分割協議がまとまれば、作成年月日を書き入れ、参加者全員(財産を受け取る方を除く)が署名及び実印による捺印をして、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割調停又は審判
遺産分割協議においても当事者間で話合いがつかない場合には、遺産整理を進めるため、家庭裁判所の遺産分割調停又は審判の手続を利用することになります。この調停は、相続人のうち、1人又は何人かが申立人となり、それ以外の者全員を相手方として申し立てるものです。
遺産分割調停において当事者が合意し、これを調停調書に記載して調停が成立すると、調停条項は確定した審判と同一の効力を有します。
調停手続で話合いがまとまらず、調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始されます。遺産分割審判が始まると、月に1回程度「審判期日」が開かれます。ここでは当事者が一堂に会して主張書面や証拠を提出したり、補足説明や意見を述べたりします。
ときには審判官の介入のもと、和解が進められるケースもあります。和解ができれば「調停」によって解決します。審判手続きが進んで十分に主張や資料の提出が行われたら、審判官が審判を下します。審判は書面によって行われるので、裁判所に行く必要はありません。最終の審判期日が終了してから1~2カ月後、自宅宛てに審判書が届きます。
審判に対して当事者が誰も即時抗告しなかった場合、審判が確定します。
確定したらその内容に従って遺産整理手続きを進めます。
まとめ
被相続人が亡くなった後、相続人は遺産を相続する手続き(遺産整理)をしなければなりません。しかし、複数人の相続人が存在する場合で、遺言書がない場合や遺言書があっても遺言書に記載されていない遺産がある場合は、遺産分割の協議をしなければならないし、当事者で話合いがつかなければ家庭裁判所の遺産分割調停又は審判の手続を利用することになります。
そして、相続人が遺産整理をスムーズに進めるためには、遺言書の確認、相続人の確定、相続財産の範囲の確定、遺産分割協議、遺産分割調停又は審判、各種の相続手続などの手順を踏む必要があります。
遺産整理の問題は、誰の身にも起こることですので、あらかじめ検討しておくことも無駄ではなく、疑問がある場合には専門家のアドバイスを受けるのが望ましいといえましょう。