遺言書を書くときに注意したい税金の話
遺言書は被相続人となる方がその遺志を遺族に伝える手段であり、相続財産の分配についても基本的に自由に指示することができます。
誰に、どの財産を、どれだけ承継させるか遺言書で指示することができますが、何も考えずただ自由に決めてしまうと色々と不都合が生じます。
遺産を受け取る相続人や受遺者には相続税などの税金の負担が生じるので、遺産を残す側としては税負担のことも考えて遺産分配を考えるようにしたいものです。
本章では遺言書を残す人が税金の面で注意したい点を横断的に見ていきますので、参考にして頂ければ幸いです。
注意点①相続税の二割加算ルール
遺産は法定相続人だけでなく任意の人物に承継させることもできます。
その際、被相続人の一親等の親族(代襲相続人を含む)及び配偶者“以外”に財産を譲る場合、その者の相続税が二割増しになるというルールがあることに注意が必要です。
例えば孫が該当し、法定相続人の代襲相続人とならない孫は二割加算の対象になります。
このルールは一般の方は知らない人が多いので要注意です。
かわいい孫に財産を譲りたいとの気持ちから孫に財産を遺贈すると余計な税金を取られることになるので、不都合が無いのであれば二割加算の対象にならない孫の親(被相続人の子=法定相続人)にその分の財産を承継させると二割加算ルールの適用がないのでお得です。
注意点②生前贈与加算のルール
生前贈与加算とは、被相続人から相続人に対して相続発生前3年以内になされた贈与財産を、相続時に相続財産に加算して相続税の計算をしなければならないルールです。
相続の発生を予期して駆け込み的に贈与を行い、相続財産の減少を図ることを防止する意味があります。
生前贈与時に贈与税を払っていればその分は相続税額から控除できますが、生前贈与を受けた人が相続時に財産を何も引き継がない場合、控除も使えないので贈与税の支払損ということになります。
また贈与税の非課税枠(年間110万円まで)内の贈与で贈与税がかからない場合でも生前贈与加算の対象になるので、贈与税の非課税枠を使った相続税対策を行う際はこの点に注意が必要です。
注意点③特定遺贈
「特定遺贈」とは、「〇〇の不動産をAに遺贈する」など、特定の財産を指定してする遺贈をいいます。
対する概念として「包括遺贈」があり、こちらは例えば「遺産の三分の一をAに遺贈する」など遺産の割合を指定してする遺贈をいいます。
法定相続人以外の人物に特定遺贈の指定をする場合で、かつ対象が不動産の場合、相続税の他に不動産取得税の課税対象にもなってしまうので注意を要します。
なお、法定相続人が相続によって不動産を引き継ぐ場合は不動産取得税がかからないので心配は要りません。
また相続人や包括遺贈を受けた者は、被相続人の債務を引き継いだり葬式費用を負担した際にその分の価額を相続財産から控除できたりする仕組みがありますが、特定遺贈を受けた者にはそうした仕組みはありません。
注意点④基礎控除や非課税財産の法定相続人の数
相続税には基礎控除枠があり、以下の遺産額までは相続税がかかりません。
「3000万円+600万円×法定相続人の数」
また非課税財産として一定の生命保険金や死亡退職金にも以下の枠があります。
「500万円×法定相続人の数」
上記の法定相続人は民法上の考え方と税法上の考え方で違いがあり、相続税の計算の際には税法上の考え方が適用されるので一定の制限がかかります。
基礎控除枠を増やそうとして養子を迎えることがありますが、養子は子の扱いになるので理論上は法定相続人の数を無限に増やし、基礎控除枠をどこまでも拡大できてしまいます。
そこで税法上で規制がかけられ、被相続人に実子がいる場合は、養子は一人まで、実子がいない場合でも二人までしか法定相続人としてカウントすることができないルールになっています。
基礎控除の計算を間違うと望ましい相続対策ができなくなる他、相続人の税負担も大幅に増える可能性があるので注意しましょう。
注意点⑤法定相続人以外への非課税財産ルールの非適用
前項で出てきた生命保険金や死亡退職金の非課税枠「500万円×法定相続人の数」を利用できるのは民法上の法定相続人だけです。
法定相続人以外で遺贈を受けた者は上記の枠が使えないので、その分相続税の負担が増すことになります。
遺産を残す側としては、財産を受け取る側にどれだけの税負担が発生するか、納税することに支障はないかということまで考えた遺産分配が求められます。
注意点⑥相続人でない受遺者は受けられない控除がある
各種控除施策の中には、障害者控除や未成年者控除、相次相続控除のように法定相続人しか利用できない控除があります。
こうしたものは法定相続人以外の受遺者は利用できないので、この点についても被相続人となる人は配慮が必要です。
注意点⑦二次相続
相続税対策は二次相続のことまで考えた視点を持つことが大切です。
例えば、配偶者の税額控除特例を使うと1億6千万円または法定相続分まで相続税がかからないので、配偶者に遺産を集中させれば相続税の負担が大きく軽減されます。
しかし、一次相続で配偶者に集中した遺産は、配偶者が死亡して二次相続が起きた時に相続対象になるので、二次相続時の遺産額が過大になり税金の負担が大きくなることがあります。
一次相続の際に複数の相続人に上手に遺産を分配しておけば、二次相続の際には遺産が分散している状態になるので安全です。
自分自身の相続だけでなく、次に起こるであろう相続のことも考えておくことが望まれます。
注意点⑧小規模宅地の特例
遺産に土地が含まれるケースでは、相続税の対策を考えるにあたって「小規模宅地の特例」を外して考えることはできません。
この特例は一定の要件を満たす宅地について、最大400㎡までを80%減額評価することができるものです。
1億円の宅地であれば2千万円分の評価ですむので、相続税負担を大きく減らすことができます。
この特例を利用するには、土地を誰に相続させるかが重要になります。
本特例は宅地を複数の種類に分け、それぞれ特例を受けられる相続人の要件が設定されているので、その要件を満たさない者に土地を相続させると特例の適用を受けられず、大きな損をしてしまいます。
小規模宅地の特例は非常に細かい要件が付されていて、素人の方は正確に理解するのが難しくなっています。
土地を相続させたいと考えている人物が間違いなく特例の適用を受けられるかどうか、税理士に確認してから遺言書に記載すると安心です。
まとめ
このコラムでは税金に関して遺言書を残す人が注意したい点をアドバイスさせていただきました。
相続税の分野は非常に複雑で素人の方には分かりづらい面もあり、意外な落とし穴にはまらないように注意する必要があります。
遺言書で遺産の取り分について指示をする際は、遺産を受け取った人にどのくらいの税負担が発生するのか、納税資金の用意はできそうかという所まで気を配る必要があります。
相続税以外にも不動産取得税などがかかってくるケースもあるので、想定している遺産分配で誰にどのくらいの税金がかかるのか、一度専門家に相談してシミュレーションしてみるのがお勧めです。
当センターでは相続分野に詳しい専門家が常駐しておりますので、税金の面についても随時ご相談を頂けます。
二次相続までを考慮した総合的な対策を練ることもできますので、安心できる相続対策を進めるためにもぜひ一度ご相談頂ければと思います。