遺言書とはどのようなもの?記載内容や種類を解説
3月は年度末であること、そして年度初めも近いことから新たな節目として自身の将来を考える時期でもあります。特に終活の一環として「遺言書」に関心を持つ人も多いでしょう。遺言書は、自身の財産や意思を明確に伝えるための重要な書類です。
また、法的に有効な形式を守ることで、相続トラブルを防ぐ役割も果たします。公正証書遺言や自筆証書遺言など、種類ごとに特徴が異なります。本記事では、遺言書の基本と記載内容について詳しく解説します。
遺言とはどのようなもの?
遺言書を作成した被相続人を遺言者と言い、遺言者は自分の財産を誰にどれだけ譲るかを自由に記すことができます。遺言は、遺言者が自分の財産をどう残すかの意思表示であり、遺言書があれば遺産分割がスムーズに進むことが期待されるでしょう。
遺言は「ゆいごん」が一般的ですが、法律用語としては「いごん」と読みます。代表的な遺言書には自筆証書、公正証書、秘密証書の3種類があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
遺言書に記載すべき内容
ここでは遺言書に記載すべき内容について紹介していきます。
遺言執行者
遺言執行者とは、遺言書の内容を実行する権限を持つ人物です。具体的には、財産目録の作成や預貯金の解約、不動産名義の変更などを行います。執行者が指定されている場合、相続人でも勝手に財産を処分できません。
ただし、遺言内容によっては必ずしも必要ではないため、指定すべきかどうか専門家のアドバイスを受けることが重要です。
誰にいくら相続させるか
遺言書では、各相続人の遺産の取り分を自由に指定できます。法定相続分は原則であり、必ずしもそれに従う必要はありません。遺言書があれば、法定割合を超える、または下回る取得割合を指定することも可能です。
その場合、遺言書の内容が法定相続分より優先されます。遺産分割の希望を明確にするためにも、遺言書を作成することが重要です。
誰に何を相続させるか
遺言書で指定できるのは遺産の取り分だけではなく、具体的にどの遺産を誰に相続させるかも可能です。例えば、配偶者に自宅を相続させるといったように、遺産の種類と相続者を明確に指定できます。
不動産が含まれている場合、遺産分割の指定を考慮しないと売却が必要になる場合もあるため、相続財産の内容を踏まえて遺言を作成することが重要です。
遺産分割の禁止
遺言書で遺産分割協議を禁止できます。これにより、相続開始時のトラブル回避や、未成年者がいる場合などに冷却期間を設けることが可能です。ただし、禁止の期間は最大でも5年以内に限られます。
期間が指定されていない場合、効力は5年間に限定されます。この方法は、相続人間での早急な協議を防ぐために有効です。
遺産に問題があった時の処理方法
相続財産に問題があると、相続人にとって不利益を被ることになります。例えば、相続するべき財産がすでに他人に譲渡されている場合、その損害を他の相続人が背負わないように、損害賠償が必要です。
この状況では、損失を受けた相続人に応じて賠償が行われ、相続の公平を確保することが求められます。この「担保責任」の仕組みによって、公正な遺産相続が保証されるのです。
生前贈与していた場合の遺産の処理方法
もし相続人が生前に贈与を受けていた場合、その贈与された額は「特別受益」として扱われ、相続時の分割額から差し引かれます(これを特別受益の持戻しと言います)。例えば、相続分が1000万円で、300万円を生前に贈与されていたとすると、その300万円は相続分から控除されて実際に相続されるのは700万円となります。
しかし、遺言書に持戻し免除の意向を明記しておけば、贈与を受けた分を考慮せず、相続分1000万円をそのまま相続させることができます。この方法は、特に事業承継を行う際に有効に活用されることが多いです。
生命保険の受取人の変更
保険金の受取人変更は通常契約変更手続きが必要ですが、平成22年4月の保険法改正により遺言書で変更できるようになりました。しかし、改正前の契約には適用されないため、保険会社に確認が必要です。
また、遺言書による変更を保険会社に通知しないと、遺言書の受取人ではなく元の受取人に保険金が支払われる可能性があります。通知の遅れに注意が必要です。
非嫡出子の認知
内縁関係の相手との子供は非嫡出子と呼ばれますが、父親に認知されれば、相続において他の子どもと同じ権利を持ちます。このため遺産分割時に相続分が減る可能性がありますが、遺言書を破棄したり隠匿したりすると、その相続人は相続資格を失うことになります。認知された非嫡出子を含む遺言書は尊重し、合法的に対応しましょう。
遺言書の種類
以下では遺言書の種類について紹介していきます。
各種類ごとの遺言書の特徴や注意点について対応が異なります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が自らの手で全文と日付を記入し、署名と押印を行う形式のものです。コストがかからない一方で、紛失や偽造のリスクがつきまとうため、注意が必要です。財産目録は必ずしも自筆でなくても構わず、パソコンで作成できますが、署名と押印は欠かせません。家庭裁判所による検認が必要です。
さらに、遺言書が無効とならないためにも、法律上の要件をしっかり満たすことが求められます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人と証人立ち会いのもとで作成され、最も信頼性の高い遺言書です。原本は公証人が保管し、家庭裁判所での検認手続きは不要です。病気やケガで字が書けなくても、公証人に出張してもらうことも可能で、高齢者にも便利でしょう。
ただし、作成には手数料や時間に応じた費用がかかる点がデメリットです。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、公証人と証人2人以上の立ち会いで、署名押印した遺言書を封筒に封入する形式です。内容は誰にも見せませんが、公証人は存在を証明するだけで、内容を証明しません。
自筆証書遺言と異なり、氏名以外はパソコンで作成可能です。ただし、法律要件を満たさないと無効になり、紛失や盗難のリスクもあります。家庭裁判所による検認手続きが必要です。
遺言に関する○×クイズ
以下に遺言に関する○×クイズがあるので問いてみましょう。
問題1
遺言は、必ず公証人によって作成しなければならない。
解答
×:遺言は必ずしも公証人によって作成される必要はありません。遺言には、手書きで作成する自筆証書遺言や、証人の前で口述して作成することができる遺言もあります。ただし、公証人によって作成された公正証書遺言が最も安全で、紛争を防ぐ効果があります。
問題2
自筆証書遺言は、遺言者が署名と日付を記入すれば、自動的に有効になる。
解答
○:自筆証書遺言は、遺言者が自ら手書きで内容を記入し、署名と日付を記入することによって有効となります。ただし、2020年の法改正により、自筆証書遺言には財産目録をパソコンで作成することが認められるようになりました。しかし、不動産登記のように家庭裁判所の検認を必要とするケースもあります。
問題3
遺言は、遺言者が亡くなった後に内容を変更することができる。
解答
×:遺言は生前に何度でも変更することができます。新しい遺言を作成すれば、以前の遺言は無効となります。変更を希望する場合は、必ず新しい遺言を作成することが重要です。
問題4
遺言には法的効力を持たない内容も含めることができる。
解答
○:遺言には法的効力を持たない内容も含めることができます。例えば、感謝の言葉や個人的なメッセージ、お願いなど、遺言書に記載しても法律上の効力はありません。しかし、遺産分割に関する具体的な指示などは法的効力を持ちます。
問題5
遺言書は、家族に対する遺産分割の指示以外にも、介護や葬儀に関する指示も書くことができる。
解答
○:遺言書には遺産分割に関する内容以外にも、例えば介護の方法や葬儀の希望など、個人的な意向を記載することができます。ただし、これらの指示は法的に強制力を持つわけではなく、あくまで遺族の参考として扱われます。
問題6
遺言は、相続人全員が同意しないと効力を持たない。
解答
×:遺言は、相続人全員の同意がなくても効力を持ちます。ただし、遺言者が当時認知症等で意思能力がない事実が明白になる場合など、遺言の内容に異議がある場合、相続人は家庭裁判所に調停申立、調停が成立しない場合は地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起することができ、遺言の内容が一部無効となることがあります。しかし、遺言自体は基本的に有効です。
問題7
遺言の作成時に証人を立てることが義務付けられているのは、公正証書遺言のみである。
解答
○:公正証書遺言以外では証人を立てる必要はありません。自筆証書遺言や秘密証書遺言には証人を立てる義務はないため、作成者が独自に内容を決定できます。ただし、証人を立てた場合、遺言書の有効性が確認されるため、後々の争いを避けるために証人を立てることを推奨します。
遺言に関する知識を確認できるこのクイズを通じて、法的な要件や注意点を理解することができます。遺言書を作成する際は、内容や手続きについて十分に理解し、法律の専門家に相談することが重要です。
遺言に関するよくある質問
ここでは遺言に関するよくある質問について紹介していきます。
Q1: 遺言書は誰でも作成できますか?
A1: はい、遺言書は誰でも作成できます。ただし、法律に従って作成する必要があり、形式を誤ると無効になることもあります。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかの方法で作成できます。
Q2: 自筆証書遺言を作成する場合、どんな点に注意すべきですか?
A2: 自筆証書遺言は、遺言者が全文を手書きし、署名と日付を記入する必要があります。パソコンで作成した場合は無効となるため、手書きが必須です。また、遺言内容に誤字があると解釈を巡る問題が発生することもありますので注意が必要です。
Q3: 遺言書を作成した後、変更や撤回は可能ですか?
A3: はい、遺言書は変更や撤回が可能です。新しい遺言書を作成すれば、古い遺言書は無効になります。変更する場合は、必ず新しい遺言書を正式に作成することが大切です。
Q4: 遺言書に記載された内容が家族に納得されない場合、どうなりますか?
A4: 遺言書に不満を持つ相続人は、遺留分減殺請求を行うことができます。これは、相続人が最低限受け取るべき遺産分を保障する制度です。しかし、遺言書自体が無効でない限り、その内容に基づく遺産分割が行われます。
Q5: 遺言書に証人は必要ですか?
A5: 公正証書遺言の場合、証人が2人以上必要です。自筆証書遺言には証人は必要ありませんが、証人を立てることで遺言書の信頼性が増し、後々の争いを避けやすくなります。
まとめ
遺言書は、遺産を誰にどのように分けるかを示す重要な文書で、遺言者の意思を反映させます。主な種類は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つで、それぞれにメリット・デメリットがあります。
自筆証書遺言は手軽に作成できますが、法律要件を満たさないと無効になる可能性があるでしょう。公正証書遺言は信頼性が高く、秘密証書遺言は内容を秘密にできます。遺言書を作成することで、相続をスムーズに進め、遺族のトラブルを避けることができます。
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