遺言は家族に残す愛のメッセージ~遺言でどうすれば相続が争族にならないようにできるか~

人は社会生活を送る中で、自ら購入したり、相続するなどして、さまざまな財産を取得するのが一般的です。
人が死亡した場合には、その財産は相続人が相続します。その場合に、遺言が残されていなければ、相続人全員で遺産分割の協議をしなければなりません。
そして、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所での調停や審判で解決することになりますが、その場合には、骨肉の争いになることも多くあり、解決が困難となります。

では、相続が争族にならないようにするためには、どうしておけばいいのでしょうか。
相続が争族(相続を親族で争うことから、俗に「争族」といわれています)にならないようにするためには、被相続人(=遺言者)が遺言を残して、財産分けを具体的に決めておくことがポイントとなります。
ただし、被相続人(亡くなる人)が、遺言を残すにしても、相続でもめないようにするためには、相続および遺言について理解をしておくことが必要です。

以下では、本タイトルに関し、争族を防ぐための遺言について検討してみましょう。

遺言を残す場合に理解しておくべきこと

遺言では、遺言者が生前に、自分が亡くなった後のことを考えて、相続財産の行き先を決めておくことができます。そこで、遺言をするためには、相続についての基礎知識、すなわち、相続人には誰がなるか、相続分はどのように定められているか、相続の対象となる財産とは何か、遺留分とは何かなどについての理解が必要になります。

相続人には誰がなるか

配偶者はつねに相続人となります。配偶者と第1順位の子がいれば、同時に相続人となります。子は実子、養子を問いません。
胎児は相続についてはすでに生まれたものとみなされますので、無事に生まれれば相続人となります。
正妻以外の女性に生まれた婚外子も、認知をしていれば相続人となります。

第2順位である父母などの直系尊属は、第1順位である子がいない場合や、子のすべてが相続放棄をした場合にはじめて相続人となります。
さらに、子や父母などがいない場合、またはそれらのすべてが相続放棄をした場合に、第3順位である兄弟姉妹が相続人となります。
相続人となる子や兄弟姉妹がすでに死亡している場合には、その子(被相続人にとっての孫や甥・姪)が代わりに相続人となります(これを「代襲相続人」といいます)。
また、父母がすでに死亡している場合は、祖父母が相続人となります。

しかし、内縁関係にある配偶者、離婚した元配偶者、養子縁組をしていない配偶者の連れ子、他家に特別養子に出た子は相続人とはなれません。

相続分はどのように定められているか

被相続人が相続分の指定を遺言でしていない場合には、民法の定める相続分が適用されます。これを法定相続分といい、法律で定められている相続分です。

法定相続分は、相続人の組み合わせによって、以下のようになります。

  1. 配偶者のみが相続人である場合は、配偶者の相続分は100%となります。
  2. 配偶者と子が相続人である場合は、配偶者の相続分は2分の1、子の相続分は2分1となります。
  3. 配偶者と直系尊属が相続人である場合は、配偶者の相続分は3分2、直系尊属の相続分は3分の1となります。
  4. 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合は、配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1となります。
  5. 子、直系尊属または兄弟姉妹が数人ある場合は、各自の相続分は均等となります。
  6. 兄弟姉妹が相続人である場合、被相続人と父母の一方が異なる兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。

相続の対象となる財産とは何か

相続の対象となる財産には、プラスの財産とマイナスの財産があります。
プラスの財産には、土地(宅地、農地、山林)、借地権、建物、借家権、現金、預貯金、小切手、有価証券(株式、社債、国債、投資信託等)、知的財産権(特許権、著作権、電話加入権、営業権等)、その他の動産(自動車、船舶、家具・什器・備品、書画・骨とう・美術品、貴金属、衣類等)、生命保険金(被相続人を受取人としている場合)など金銭的価値あるものがすべて含まれます。

また、マイナスの財産には、借金、住宅ローン残高、自動車ローン残高、買掛金、未払金、保証債務、未払税金(所得税・住民税・固定資産税等)、損害賠償債務などが含まれます。マイナスの財産については、相続人が債権者に対して法定相続分に応じて債務を負うのが原則となります。

ところで、相続人の中に被相続人から遺贈(遺言により財産を無償で譲与すること)、婚姻や養子縁組のための贈与(持参金、支度金の贈与)、生計の資本としての贈与(不動産、不動産を購入するための資金、事業の開業資金等の贈与)などを受けた者がいる場合(その受けた利益のことを「特別受益」といいます)には、相続人間の公平・平等を図るため、現実に残された財産に特別受益を加え(これを「特別受益の持ち戻し」といいます」)、これを相続財産とみなし、具体的な相続分を計算することになります。

なお、相続の対象とならない財産には、墓地、墓石、霊廟、位牌、仏壇、仏具、神棚、仏像、祭具など日常礼拝の対象としているものが含まれますが、これら系譜、祭具および墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が受け継ぎます。

遺留分とは何か

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人について、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことをいいます。被相続人の遺贈や贈与によっても奪われることのないものです。
遺留分を侵害された相続人は、被相続人から多額の遺贈や贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。

民法が定める遺留分は、以下のようになっています。

  1. 直系尊属のみが相続人である場合の遺留分は、被相続人の財産の1/3×その者の法定相続分
  2. それ以外の場合(直系卑属のみの場合、直系卑属と配偶者の場合、直系尊属と配偶者の場合、配偶者のみの場合)の遺留分は、被相続人の財産の1/2×その者の法定相続分
  3. 同順位の相続人が数人ある場合は、各自の遺留分は均等

実際にある遺言のトラブル

実際にある遺言のトラブルについて見てみましょう。

遺言書では相続財産全部の行き先が決まっているが、特定の相続人の取り分が法律の定めた最低保障分(遺留分)に足りない場合

このような場合、特定の相続人は、遺留分を侵害されたことになりますので、被相続人から多額の遺贈又は贈与を受けた者との間でトラブルになる可能性があります。両者の間で金銭による解決が図られない場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。ただし、遺贈や贈与を受けた者が金銭をただちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払期限の猶予を求めることができます。

遺言書を書く際に、上述した相続人の遺留分を侵害しないように考えて、相続財産を相続人に分ければ、このようなトラブルを避けることができます。

遺言書に書かれていない相続財産がある場合

利用価値や売却価値のある高価な物品、家族にとって思い出となる主観的価値のある物品が遺言書に書かれていないため、このような相続財産の取得をめぐり、相続人間でトラブルになる可能性があります。そして、どうしても遺産分割の協議でまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停手続き、さらに調停での解決が困難な状況に至った場合には、家庭裁判所による審判手続きに移行して、遺産分割の方法が決められることになります。

遺言書を書く際に、上述したような相続財産についても、誰に何を割り当てるかを遺言書に明記するか、また主観的価値のある物品については形見分けの形で付言(付言については、後述します)で明らかにしておけば、このようなトラブルを避けることができます。

遺言書があっても、遺言が偽造の疑いがあるとか、遺言能力に問題があるとして、遺言が無効だといって相続人間で争いになる場合

遺言書の保管状況によっては偽造が疑われたり、認知症の兆候がある場合に遺言能力に疑いが生じたりして、相続人間でトラブルになる可能性があります。このような場合には、遺言が無効かどうかを決める民事裁判を先に行って、遺言の有効性をはっきりさせる必要があります。

公正証書遺言であれば、法律の専門家である公証人が作成しますので、偽造の余地はありません。また、遺言能力があるかないかの判断は公証人が行いますが、遺言能力が疑わしい場合には、状況に応じて担当医師の診断結果を聞いたり、場合によっては診断書を徴するなどして、遺言能力があるかどうかを的確に判断しますので、遺言が無効になることを避けることができます。

遺言書では相続財産の分け方が決まっていない場合

このような場合には、相続財産の分け方をめぐり、相続人間でトラブルになる可能性があります。遺産分割の協議がまとまらなければ、その解決策は、上述したように、家庭裁判所での調停や審判の各手続きによることになります。

相続財産の分け方には、現物分割(財産をそのままの形で分割する方法)、代償分割(財産をもらった方が差額等を現金で払う方法)、共有分割(財産を共同で相続する方法)、換価分割(財産を売却して現金で分割する方法)の4通りの方法がありますが、遺言書を書く際に、相続財産全部についてどの方法の分け方によるかを決めておけば、このようなトラブルを避けることができます。

遺言で特別受益が考慮されていない場合

特別受益を受けた者の実際の相続分は、法定相続分から特別受益分を差し引いたものになります。しかし、遺言では、特別受益分を相続財産に持ち戻して、相続人間で不公平・不平等にならないように財産の配分をしていない場合、不利益を受けた相続人に不満が残り、相続人間でトラブルになる可能性があります。

相続人の中に、特別受益を受けた者がある場合には、遺言書の中で、持ち戻し免除の意思表示をするか、遺言書を書く際に、その特別受益分を相続財産に持ち戻し、そのうえで相続人の配分を決めて、相続人間に不公平・不平等が生じないようにすれば、このようなトラブルを避けることができます。

遺言で寄与分や特別寄与料が考慮されていない場合

被相続人の事業を手伝ったり、被相続人の介護をしたりして、被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献(寄与)をした相続人については、その貢献(寄与)に応じた相続分の増加が認められます(以下「相続人の寄与分」といいます)。

また、被相続人の親族(相続人にあたらない者)が、被相続人を無償で介護するなどして、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をしたと認められる場合には、相続人に対し、特別の寄与に応じた額の特別寄与料の支払いを請求することができます(以下「相続人以外の者の特別寄与料」といいます)。

相続人の寄与分や相続人以外の者の特別寄与料が遺言で考慮されていない場合には、相続開始後に、その取扱いをめぐって、相続人間でトラブルになる可能性があります。

当事者間で解決できない場合には、家庭裁判所での調停や審判で解決してもらうことになりますが、争いが深刻化して、親族間に溝ができないとも限りません。

被相続人は、遺言を残す際に、寄与分や特別寄与料を考慮して、相続人の寄与分を加味し、また相続人以外の者に特別寄与料に見合った遺贈をしておけば、このようなトラブルを避けることができます。

遺言を書く意義

遺言とは、被相続人(=遺言者)が亡くなったときに財産をどのように分配するかなどについて、遺言者の最終意思を明らかにするものです。
すなわち、遺言とは、自分が生涯をかけて築き守ってきた大切な財産について、最も有効かつ有意義に使ってもらいたいという切実な思いを残された家族に伝えるものなのです。
遺言がある場合には、原則として、遺言者の意思に従った相続財産の分配がされます。
すなわち、法律にのっとって作成された遺言は、法定相続分のルールに優先します。したがって、遺言は、遺言者が亡くなった後、相続人が財産・権利などで争いとなるような「争族問題」を防止するための有用な手段なのです。

そのため、自筆証書遺言、公正証書遺言および秘密証書遺言は、遺言者の真意を確実に実現させられるよう、厳格な方法が定められています。その方法に従わない遺言はすべて無効になります。
その中でも、公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が作成しますので、方式に違反するなどの理由で無効になることを避けることができますし、法律的に見て不備がなく最も安心確実な方法です。公正証書遺言があれば、遺言者が死亡したとき、他の相続人の同意を要しないで、その公正証書で登記、銀行預金の解約・払い戻し等の手続きができます。

他方、自筆証書遺言や秘密証書遺言では、家庭裁判所による「検認」という面倒な手続きをとる必要がありますが、公正証書遺言ではその必要もありません(ただし、遺言書保管所において保管されている自筆証書遺言については、家庭裁判所での検認は不要です)。

公正証書遺言の原本は、公証役場で半永久的に保管され、紛失のおそれや第三者による改ざんのおそれもありません。さらに、日本公証人連合会の遺言検索システムに登録されますので、遺言者が亡くなった後(遺言の効力発生後)、その相続人などの利害関係人が遺言をしたかどうかを問い合わせることができます。

一度遺言をしたとしても、周囲の状況や遺言者の心境が変わってきたときは、遺言を変更することもできますし、改めて遺言することもできます。その場合、以前の遺言は、後の遺言と抵触する部分について効力を失います。

このように、公正証書遺言は、自筆証書遺言や秘密証書遺言に比べて、はるかに優れているうえ、公証人は公務員として守秘義務を負いますので、秘密は厳重に守られます。

このようなことから、遺言の中では、公正証書遺言がもっとも利用されているのです。

争族を防ぐ遺言をすること

相続でもめないようにする予防策はあるのでしょうか。
もちろん、相続人が1人しかいない場合には、その人が被相続人の全財産を相続しますので、相続でもめることはありません。
また、相続人がまったくいない場合には、最終的には相続財産は国庫に帰属しますので、この場合も相続でもめることはないことになります。
そして、遺言によって被相続人の財産の分け方がすべて決まっている場合には、相続開始後に遺産分割協議を行う必要がありませんので、相続でもめることはないでしょう。

しかし、被相続人の死亡後には、どんなに仲の良かった相続人同士であっても、相続財産をめぐり後日争いが起こらないとも限りません。
遺言があれば、争族を防ぐことができる場合について考えてみましょう。

被相続人に子がなく、配偶者に多くの財産を残したい場合

被相続人夫婦に子がいない場合、死亡した被相続人が遺言を残していなければ、配偶者の相続分は3分の2であり、3分の1は被相続人の両親が相続します。その両親もすでに亡くなっているときは、配偶者の相続分は4分の3であり、4分の1は被相続人の兄弟姉妹が相続することになります。

そして、相続人間において、遺産分割の協議をしたうえ、相続財産を法定相続分の割合で分けることになります。しかし、被相続人の配偶者と他の相続人とは、血のつながりがないため、遺産分割の協議が難航することも考えられます。

被相続人としては、長年連れ添った配偶者により多くの財産を残してあげたいと思う人が多いでしょう。そうするためには、遺言を残しておくことが必要になります。
被相続人の両親には遺留分がありますので、その遺留分を侵害しない限度で、被相続人は遺言より、より多くの財産を配偶者に残すことができます。
兄弟姉妹には遺留分がありませんので、被相続人は遺言により配偶者に全財産を残すことができます。

相続人同士が不仲あるいは疎遠な場合

被相続人に、先妻の子、後妻やその子、認知した子、実子以外の養子がいて、被相続人の子ら相互の間や親子間が円満を欠く場合には、とかく感情的になりやすく、遺言できちんと相続財産の配分をしておかないと、相続財産をめぐり争いが起こらないとも限りません。

このような場合に、相続人の遺留分を侵害しない限度で、遺言できちんと相続財産の行き先を定めておけば、争いの発生を未然に防ぐことができます。

相続人がまったくいない場合

被相続人に相続人がまったくいない場合には、特別な事情のない限り、相続財産は国庫に帰属します。それはそれで受けいれようという場合は、被相続人がすべきことは何もないでしょう。しかし、相続財産が国庫に帰属することを望まない場合には、希望する団体に寄付するにしても、お世話になった人に遺贈するにしても、その旨の遺言をしておく必要があります。

行方不明の相続人がいる場合

相続人の中に、行方不明者がいる場合には、遺言がなければ、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立をしなければならず、選任された不在者財産管理人が、遺産分割の協議に参加することになり、遺産分割が終了するまでにかなりの時間と費用を要することとなります。また、不在者には、遺産分割にて、最低限「法定相続分」の権利を取得させる必要があります。

このような場合に、適切に遺言を作成していれば、スムーズな遺産の承継を実現することができます。

法定相続分によらずに、自分の意思で各相続人に財産を配分したい場合

長年連れ添った配偶者に多くの財産を残したい場合、老後の面倒をみてくれている子や心身に障害のある子に他の子より多くの財産を残したい場合には、相続人の遺留分を侵害しない限度で、遺言できちんと相続財産の行き先を定めておけば、相続財産の分け方をめぐっての争いを防ぐことができます。

不動産を相続人の共有にするのが望ましくない場合

相続財産が少ないため、遺言がなければ特定の不動産について相続人の共有名義とならざるを得ない場合、将来処分する際には、共有者の協議を要することになりますが、売却の条件等で共有者間でもめることもよくあります。

このような場合の予防策として、最も有効なのは遺言ということになります。
対策として、遺言内で、遺言執行者を指定し、遺言者(被相続人)の有する不動産を含む全財産を換価(売却)させ、その換価金から遺言者の債務を弁済し、遺言執行に関する費用を差し引いた残金を、相続人の遺留分を侵害しない限度で被相続人が望ましいと考える相続割合を決めて各相続人に相続させる内容とすれば、相続人間でのトラブルを避けることができます。

相続人以外の者が被相続人の介護に尽くしている場合

被相続人の介護に尽くしている者が、相続人以外の者である場合、その者は特別寄与料を請求することができますので、相続開始後、被相続人を介護していた親族と相続人との間で、相続人以外の者の特別寄与料の額をめぐってもめることが考えられます。

たとえば、子が先に亡くなってしまい、残された息子の嫁に介護してもらっていた場合、嫁は相続人以外の者ですが、被相続人の親族として、相続人に対し、特別寄与料の請求をすることができます。

しかし、その支払いをめぐってもめることになれば、上述したように、調停や審判によって解決しなければなりません。これは、相続開始後の相続人間における支払いをめぐっての争いといえます。

被相続人は、息子の嫁の介護に報いるため、それに見合う金額を遺贈していれば、嫁と相続人との間での特別寄与料をめぐる争いを防ぐことができます。

内縁関係にある者に財産を残したい場合

被相続人に内縁関係にある者がいる場合、お互いに相続権がありません。被相続人が亡くなって相続が開始した後に、内縁関係にある者と相続人との間で相続財産をめぐり、トラブルになることが考えられます。

このような場合、被相続人が相続人の遺留分を侵害しない限度で、内縁関係にある者に財産を遺贈しておけば、トラブルを避けることができます。

特別受益に関する意思表示をしたい場合

相続人の中に、特別受益を受けた者がいる場合、本来であれば特別受益分は持ち戻され、特別受益分を加えたものを相続財産とみなして、各相続人の相続分が計算されます。しかし、家族関係の状況や経済事情によっては、相続開始後、みなし相続財産のもとでの具体的な配分をめぐり、相続人間でトラブルになる可能性があります。
このような場合に、被相続人が、家族関係の状況や経済事情を考慮して、遺言により相続財産の算定にあたっては特別受益分を相続財産の価額に加えない旨の意思表示をしておけば、その意思表示に従った相続分になりますので、相続人間のトラブルを避けることができます。

なお、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方の配偶者に対し、配偶者居住権を遺贈したときは、配偶者は、遺言に基づき建物について配偶者居住権を取得します。この遺言に基づき取得することになった配偶者居住権は、配偶者の特別受益となります。そして、この特別受益は、当該遺贈にかかる財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(持ち戻し免除の意思表示)をしたものと推定されます。その結果、配偶者は、最終的により多くの財産を取得することができることになります。

個人事業を承継させたい場合

家業の財産的基礎を複数の相続人に分割してしまうと、家業の継続が困難になるばかりでなく、その財産の配分をめぐり、相続人間でトラブルとなることも考えられます。

被相続人が、家業を手伝ってくれている者に家業の跡を継がせたい場合には、事業用資産をその者に相続させる旨の遺言をし、その余の相続人には、その遺留分を侵害しないように遺言をしておけば、相続人間のトラブルを避けることができます。

遺言執行者の指定が望ましい場合

遺言執行者とは、遺言者が亡くなった後、遺言者に代わって遺言の内容を実現させる者であり、弁護士等の専門家だけでなく、相続人・受遺者自身もなることができます。遺言執行者の指定がない場合には、遺言の内容を実現する都度、相続人全員が集まったり、委任状を作成する必要があり、それぞれの手続きの過程で、相続人が異論を差しはさんでもめたりして、トラブルにならないとも限りません。

被相続人が遺言で遺言執行者を指定しておけば、不動産の名義変更や預貯金の解約など、遺言の執行をスムーズに行うことができ、相続人・受遺者の負担も軽減されますので、相続手続きにおけるトラブルを防ぐことができます。

また、「遺言執行者が任務遂行に関して必要と認めたときは、第三者にその任務を行わせることができる」と定めておけば、弁護士、司法書士、税理士に必要な事務を任せることもできます。

遺言者の意思(遺志)を伝えたい場合

遺言書に記載された事項が、すべて遺言として効力を有するものではありません。遺言として法律上の効果が生じる事項は、原則として、民法その他の法律に限定的に定められています。これを法定遺言事項といいます。
しかし、法定遺言事項以外にも、遺言者が、遺言の動機、心情、配分を定めた理由、相続人らに対する希望などを遺言書に記載するよう求めることがあります。これを付言(表題は、付言事項、付記事項などもあります)といいます。付言は、法律上の効果を伴わないものですが、相続人らに遺言の趣旨を理解してもらい、遺言内容の円滑な実現を図るうえで有益なことがあります。

付言としては、❶葬式や法要の方法、❷家業の発展、家族の幸福の祈念、❸親族・兄弟姉妹間の融和、❹死後に角膜・腎臓などを医学のために提供(献体)、❺遺体の処理方法、➏家訓などの遵守なども記載することができます。

たとえば、「この遺言は、病弱な妻〇〇の生活に不安がないようにすることを第一とし、早く父を失って苦労してきた甥〇〇・姪〇〇にも多少の財産を分けてやりたいと考えてしたものです。また、長男〇〇にはこれまでかなりの事業用

<資金を援助しているので、この点を考慮して配分を決めてあります。以上の趣旨を十分理解してこの遺言を尊重し、兄弟2人は、これまで同様仲良くして、お母さんに孝養を尽くしてください」、あるいは「長男〇〇は遺言者を助けて家業に従事し、遺言者の死後は家業を承継する立場にあります。二男〇〇は独立して豊かな経済状態にあります。長女は結婚して経済的にも恵まれています。そこで、これらのことなどを考慮し、遺留分を侵害しない限度において、それぞれの相続分を定めましたので、この遺言を尊重し、子どもたちは、仲良くして、お母さんを大切にしてください」なとど、その理由を付言に記載しておけば、相続人間での、特に遺留分に基づく争いを防止することも期待することができます。

まとめ

遺言がない場合には、法定相続分に従って、各相続人は相続財産を相続します。具体的な相続財産の分配については、相続人全員による話し合いによって決める必要があります。しかし、話し合いの過程で、相続財産をめぐり親族間で骨肉の争いに発展するケースが少なくありません。また、各相続人の家族状況や経済状態などによっては、法定相続分による分配が、必ずしも実質的に公平といえない場合もあります。
今まで仲の良かった親族が、相続をめぐって骨肉の争いを起こすことほど、悲しいことはありません。
遺言は、大切な人たちが相続財産をめぐって争いになることを防ぐため、遺言者自らが、自分の残した財産の帰属を決めることに主たる目的があります。
遺言は家族に残す愛のメッセージなのです。
ただし、せっかく遺言を書いてもそれが無効になってしまっては何の意味もありません。そうならないように、専門家へ遺言作成を依頼したほうが良いでしょう。
当センターでは、数多くの遺言書作成の実績があります。
遺言書の作成でお悩みの方、是非相続相談センターまでご相談ください。

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