遺言を書いて相続トラブルを避ける!認知症・障がい者・連れ子がいる場合の遺言書作成について注意点を解説
この記事では、次の状況において起こりやすい相続トラブルや、遺言を残す際の注意点を解説しています。
- 連れ子がいる
- 相続人に認知症の人がいる
- 被相続人が障がい者である
- 被相続人に、障がい者である子(または配偶者)がいる
※『被相続人』は亡くなられる方を指し、『相続人』は生きて承継する方を指します。
※『被相続人』は、「遺言を残す人」という意味で「遺言者」とも呼びます。
※『障がい者』とは、本記事においては別段の記載がない限り「精神」の障がい者を指しています。
相続トラブルを避けるためには有効な遺言書を遺すことが大切
相続において、相続人同志のトラブルや手続きのトラブルを避けるためには、有効な遺言書を作成しておくことが非常に大切です。
『有効な遺言』と聞くと、「えっ?遺言が無効になることもあるの?」と思われるかもしれませんが、まさにその通り。
「お気持ち」を伝えるためだけの遺言であれば、法律上有効かを気にする必要は無いのですが、遺産の分け方を決めたり、誰かに財産をあげたり、婚外の子を認知したりといった『法的な行為』を遺言で行う場合には、法律で定められた要式に従って作成しなければ、無効となってしまうのです。
なおさら、連れ子や認知症の家族がいるような場合には事情が複雑になりやすく、遺言等の生前対策は必要なものになるでしょう。
『遺言』について詳しく知りたい方は、先にこちらの記事をご覧ください。
今回は事情が複雑になりやすい場合についての「遺言」について案内します。
連れ子、認知症、障がい者がいる場合、相続・遺言の注意点は?
まず、状況に応じて相続トラブルになりやすい問題と、遺言を残す際の注意点を解説していきます。
連れ子がいる場合
連れ子がいる場合に相続トラブルを防止するためには、まずは有効な遺言をしっかりと残すことが大切です。
連れ子の相続関係は複雑で、誰が先に亡くなるかで相続の割合が変わってしまいます。
例えば、Aと婚姻したBに連れ子Cがいた場合、原則としてAからCへ直接の相続は発生しません。
A→Bの順に亡くなれば、A→B→Cと順に相続することになりますが、B→Aの順で亡くなると、AからCへの相続は起こらないことになるのです。
これは、Bの子CがBの前夫(前妻)と暮らしている場合でも同様で、親権の有無も関係ありません。
つまり、望む相続が発生しないこともあれば、望まない相続が発生してしまうこともあるのです。
遺言は、このようなトラブルを回避するための有力な方法となるでしょう。
そのほか、養子縁組によって連れ子に相続権を与えておくという方法もあります。
相続人に認知症や障がい者の方がいる場合
相続人の中に認知症や障がい者の方がいる場合、相続後の財産管理が大きな問題となります。
認知症や障がいの重さによっては、民法上の『意思能力』が認められず、ひとりでは『契約』や『遺産分割』ができなくなるためです。
現実によくあるのは、既に住んでいない自宅などの不動産を売却できず、お金に換えることができない、というケースです。
これは認知症の方と他の相続人との共有になった場合も同じで、共有である限り結局不動産全体として売却できないことになるのです。
こうなってしまうと『成年後見人』を選任する必要も出てくるでしょう。
このような状況を避けるには、遺言によって遺言執行者を選任する方法や、家族信託によって財産を運用するといった方法などが考えられます。
遺言者自身が障がい者である場合、認知症のおそれがある場合
遺言者自身に(精神上の)障がいがある場合や、認知症のおそれがある場合には、遺言がトラブルのもとになることもあります。
たとえ認知症が軽度であったとしても、それが遺言者本人のはっきりした意思で書かれたのかというと、相続人には判断が難しいためです。
そのため『遺言が有効か無効か』について相続人同士が裁判で争うケースも少なくありません。
こうしたトラブルを回避するには、『公正証書遺言』で遺言書を作成することが効果的です。
実際にあった遺言書のトラブルは?
実際にあった遺言書のトラブルを2つ紹介します。
1.遺言書は残っていたものの、死後に隠し子があることが発覚した事例
ケース1は、亡くなった父が書いた遺言書は残っていたものの、父の死後、隠し子があることが発覚したという事例です。
亡父は、前妻および子がいることを生前に隠しており、その死後、相続人である息子Aさんが不動産の登記名義を変更しようと戸籍を取り寄せた際に、亡父に前妻および子B がいることが分かりました。
遺言には『不動産を息子Aに贈与する』と記載されておりましたが、実はこの記載だけでは不動産の相続登記の申請を行うには不十分で、その後の手続きに詰まってしまいました。
どういったトラブルなのかを整理すると、
- 「贈与する」の記載は、法律上「相続」ではなく「遺贈」と判断されるため、原則として隠し子Bも登記の申請人として関与しなければならない。(不動産の遺贈を受けたのはAだが、これによってBが相続人の地位を失うわけではない)
- Aは、隠し子Bなど今さら付き合いたい相手ではなく、連絡を取りたくもない。
- 現にAがBに連絡しても返事がない。
- 仮に返事が来たとしても、遺産の分割についてトラブルになる可能性がある。(遺産の分割請求や遺留分の請求のほか、いわゆるハンコ代を請求される可能性がある。)
本件においては、裁判所へ『遺言執行者』の選任を申し立てて登記を行うことになりました。
遺言執行者が選任されれば、隠し子Bの協力が無くても登記申請が可能です(ただし、遺言執行者からBへの通知等が必要です。)。
結果として無事に遺言執行者が選任され、本件は解決に至りました。
この件はそもそも隠し子の存在というトラブルもありましたが、解決までには3カ月ほどの余計な時間と費用を要することとなり、その間、相続人はストレスに悩まされることになってしまいました。
仮に、遺言書の記載が『贈与する』ではなく『相続させる』であったなら、遺言執行者選任の手続きや費用についてはカットすることができていたでしょう。
※相続人に対する遺贈の登記申請は、今法改正により単独申請となる予定です。新しい法律の施行日まではよくあるトラブルですのでご注意ください。
2.父が認知症であり、亡母が所有していた不動産を売却できなくなってしまった事例
ケース2は、認知症についての事例です。
今回の登場人物は、相談者Cさんと認知症の父、および亡母の3人。
初めに、Cさんの亡母は、ある土地を所有していましたが、十数年前から空き地のまま放置していました。
Cさんの父は存命ですが認知症を患っており、名前や住所も口にすることはできません。
そんなとき、「この土地を売ってほしい」と、隣地の工場を所有する会社からCさんへ連絡が入ります。
しかし、母は遺言を残していませんでした。
そのため、土地の相続人となるのは、Cさんとその父です。こうなると、共有者の父が認知症であり症状も重いため、土地を売買するための『契約』ができません。
このケースで土地の売買を進めるためには、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任するという方法しかなくなってしまいました。(若しくは、父が亡くなるまで待つという選択もあります。)
母からの遺言があれば、こうしたトラブルは充分に避けることができたでしょう。
まとめ
自身の認知症が心配な場合や、家族に認知症の方や障がい者の方がいる場合、遺言やそのほかの生前対策を行うことで、相続によるトラブルを回避する効果は大きいです。
ご自身の死後に対することですので、なかなか考えたくないものですが、認知症になってからでは遅いため、早めの対策を行うと良いでしょう。