マンションの名義変更 代表的な原因と注意すべき点
1.不動産の情報
不動産は、国民にとって重要な財産です。
国民の財産を守り、安全に取引できるよう不動産情報は一般に公開されています。
公開している不動産情報は、不動産の物理的状況(土地の面積や建物の構造、床面積など)と権利関係(持ち主や銀行の担保に入っているかなど)です。
「登記簿」という書面に、情報が記録(登記)されています。
日本では、土地と建物は別個独立の不動産として扱っているので、別々に処分することができます。そのため登記簿も1個の土地、1個の建物ごとに作成されています。
登記簿を備えているのが法務局です。
法務局は、不動産名義変更などの登記事務を行う行政機関です。
だれでも手数料を支払えば、登記簿の写しを請求できます。
不動産を売れば、持ち主が買主に変わります。
持ち主が変わった事実を登記簿に記録(登記)することを名義変更といいます。
登記簿をみれば、その不動産の歴史(履歴)を知ることができます。
2.名義変更について
不動産の名義変更は義務ではありません。
なぜ義務でないのに持ち主が変われば、当たり前のように名義変更するのでしょうか。
それは自分のものだと第三者に主張するためには、名義変更することが要件になっているからです。
3.名義変更が生じる代表的な原因
不動産の名義変更が必要な原因は、大きく分けて2つあります。
ひとつは、「売買」や「贈与」など当事者の意思表示で名義が変わる場合。
もうひとつは、「相続」など法律の規定によって名義が変わる場合です。
以下、代表的な原因を例に名義変更に注意すべき点について説明していきます。
4.売買によるマンションの名義変更と注意すべき点
①不動産(マンション)売買の簡単な流れ
マンションを売りたい人は、不動産業者に仲介を頼み買主を探してもらいます。
購入したい買主が見つかれば価格等具体的な交渉に入ります。
交渉がまとまれば契約を交わします。
契約の時、買主は売主に売買代金の5~10%の手付金を支払います。
この手付金は、売買代金に充当されます。
契約後、売主は引渡しの準備、買主は残代金の支払いの準備をします。
多くの買主は銀行から融資(住宅ローン)を受けて残代金を支払います。
売主の引渡しの準備と買主の融資が決まれば、マンションの決済日を決めます。
決済日とは、残代金の支払いとマンションの引渡しを行う日のことです。
決済は、買主が融資を受ける銀行の応接室などで行われます。
決済には、売主、買主及び仲介した不動産業者が集まります。
名義変更の手続きを行うため司法書士も立ち合います。
司法書士は、不動産登記手続きの代理をする専門家です。
単に名義を変えるだけの登記なら、買主がやろうと思えばできるかもしれません。
しかし、銀行が融資をしている場合はできません。
銀行は、融資の担保として買主が購入するマンションに抵当権を設定します。
抵当権とは、買主が返済不能になった場合にマンションを競売し、その売却代金から優先的に弁済(配当)を受けることができる担保のことです。
抵当権設定の申請は、必ず融資実行日にする必要があります。
融資実行日より遅れることがあると、一時無担保で融資したことになり、損害が発生していなくても銀行にとっては大問題です。
そのため銀行は、登記の専門家である司法書士に登記を依頼します。
全員揃えば、すぐに決済を始めます。
まず、司法書士が登記申請に必要な書類を当事者から受け取ります。
登記申請の書類に不備がないことを確認しましたら、銀行に融資の実行をお願いします。
融資の実行には、通常1時間ほどかかります。
その間に、マンションの鍵を買主に渡すなどして引渡しが行われます。
融資の実行が終わり、司法書士が残代金の支払いを確認して決済は終了します。
司法書士は、その日のうちに管轄法務局に名義変更の申請を行います。
名義変更は、法務局にもよりますが10日前後で完了します。
名義変更が無事完了すれば、マンションの売買は終了です。
②マンションの登記名義と持分
名義人が1人の場合を単有、2人以上の場合を共有といいます。
共有の場合、必ず持分割合を決める必要があります。
例えば、共働きの夫婦が、3,000万円のマンションを夫2,000万円、妻1,000万円の資金を出しあって、共同で購入したとします。
この場合、夫婦の共有持分は、夫3分の2、妻3分の1になります。
持分割合は、出した資金の割合です。
妻も資金を出しているのに、共有名義とせずに夫の単有名義で登記をしてしまうと、妻から夫に1,000万円の贈与があったものとして贈与税が課税されることになります。
また、高齢の親が長期のローンを組めないときに同居する子供が親と共に借主(債務者)になる、親子リレーローンの場合も考え方は同じです。
親子の共有持分はローンの負担割合になります。
5.贈与によるマンションの名義変更と注意すべき点
贈与は、相続対策や残された配偶者の生活保障のために親子間や夫婦間で行われます。特にマイホーム(居住用不動産)を贈与する場合には、特例があります。
①夫婦間のマイホーム贈与の特例
婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用マンションの贈与があった場合、2,000万円の控除と基礎控除(年間110万円)を併せて2,110万円まで贈与税がかかりません。
②親子間のマイホーム贈与の特例(相続時精算課税)
60歳以上の親や祖父母から20歳以上の推定相続人である子又は孫に対して、マンションを贈与した場合、その価格から2,500万円を特別に控除することができます。
2,500万円を超えた金額に対して一律20%の贈与税が課税されます。
マイホーム贈与の特例を利用して贈与税はかからなくても名義変更には登録免許税や不動産取得税はかかります。
いずれの特例を利用するにしても、贈与税の申告が必要です。
事前に税理士などの専門家のアドバイスに従って行うようにしてください。
6.財産分与によるマンションの名義変更と注意すべき点
離婚した当事者の一方は、相手に対して財産の分与を請求することができます。
財産分与としてマンションを渡す協議が成立した場合、名義変更することができます。
名義変更自体、売買や贈与と同じで簡単です。
しかし、抵当権が設定されている場合は、簡単にはいきません。
よくあるのは、夫婦が共に融資を受けて、マンションを購入している場合です。
この場合、マンションは夫婦の共有名義になります。
離婚が成立し、マンションの夫の持分を妻に財産分与することを決めても、銀行の同意なしに、妻の名義に変えることはできません。
通常、抵当権設定契約書には、「銀行の同意なしに名義を変更してはいけない。」旨の条項があるからです。
夫婦がローンを組むパターンとして
- 個別に借主(債務者)になるペアローン
- 夫が借主(債務者)になり、妻が連帯保証人
- 夫と妻が連帯債務者
の3つがあります。
それぞれのパターンにより銀行が同意する条件も違ってくるので、必ず事前に相談してから名義変更するようにしてください。
7.相続したマンションの名義変更と注意すべき点
人(被相続人)が亡くなった瞬間に相続が開始します。
被相続人の財産上の権利義務(借金も含めて)は、相続人に引き継がれます。
相続に関しては、自分の意思(遺言書)で決めるのを原則としています。
このことを「遺言相続」といいます。
自分の意思で決めない場合、法律の規定に従い相続することになります。
このことを「法定相続」といいます。
法定相続には、配偶者相続と血族相続があります。
配偶者は、法律上の配偶者で内縁の配偶者は含みません。
血族相続(法定相続人)は、まず被相続人の子、子がいない場合は親、子も親もいない場合は兄弟姉妹の順番で相続人になります。
配偶者は常に相続人になります。
遺言書があれば、マンションの名義変更は遺言書の内容に従います。
遺言書は、大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類あります。
自筆証書遺言は、遺言の内容(財産目録は除く)全文を自書する遺言です。
公正証書遺言は、公証人に遺言内容を伝え、公証人が作成する遺言です。
公証人は、元裁判官など法律の専門家の中から法務大臣が任命します。
公証人が仕事をする場所が公証役場です。
自筆証書遺言で名義変更するためには、家庭裁判所で検認手続きを受けないといけません。
検認手続きとは、遺言者の死亡後に家庭裁判所で遺言書の内容や形式を明らかにして、遺言者の遺言意思を判断する手続きです。
公正証書遺言の場合、公証人と証人2名が遺言者の遺言意思を確認しているので、検認手続きは不要です。
ただし、自筆証書遺言であっても、令和2年7月10日から実施されている法務局での遺言書保管制度を利用すれば、検認手続きが不要になりました。
遺言書がなければ、法定相続になります。
法定相続人が複数の場合、マンションは相続人全員の共有になります。
そのまま相続人全員の共有名義にすることもできます。
しかし、相続人全員の話し合いにより相続人1人の名義にすることもできます。
この話し合いを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議書を作成し相続人全員が署名し実印を押印すれば、直接その相続人の名義にすることもできます。
8.最後に
何代にもわたり相続登記もされず放置されている所有者不明の土地の増加が社会問題になっています。そのため相続登記を義務化する動きがあります。
不動産登記制度は、不動産の物理的状況と権利関係を正しく公示し、不動産取引の安全に資することを目的としています。
不動産の権利があいまいになっている場合は一度法務局へ確認してみることをお勧めします。いざ変更というときに祖先の名義のままという不動産は意外に多く、その場合は費用も時間もかかってしまうことになります。
自分の次の世代へ継ぐ時にどのような準備をしていくのか、名義はどのタイミングで変更が良いのか、それぞれの状況に合わせて専門家への相談をしていくことが必要です。