不動産の相続登記が義務化!今後どうすべきか解説
「親名義だった不動産を相続したけれど、登記はそのままになっている」という方は意外といらっしゃるのではないでしょうか。実は、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。今まで義務ではなかったためそのままにしていた方も、今後は登記をしなければなりません。
相続登記が義務化されると聞いて、「登記しないとどうなるのか?」「登記にかかる費用は?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。
今回のコラムは相続登記義務化について説明してまいります。
1 なぜ相続登記が義務化されたのか
(1)相続登記とは
まず相続登記とは何かについて簡単に説明します。親が亡くなると、親が所有していた財産は遺産として相続の対象となり、配偶者や子どもへ相続されます。
親が土地や建物などの不動産を所有していた場合、登記は親名義のままとなっているので、相続人名義に変更する必要があります。これを相続登記といいます。
(2)相続登記が義務化された経緯
本来、土地や建物などの不動産を売買等することによって所有権が移転した場合、移転登記をする必要があります。しかし、登記をしなくても罰則はなかったため、移転登記をせず登記簿上は前所有者のままになっている不動産が見られました。特に相続の場合、売買などと違って自分が使用する予定のない不動産が自分の意図しないタイミングで相続されることがあります。相続登記をするには登録免許税や司法書士費用などがかかることもあり、積極的に相続登記をしようというモチベーションが起こらずそのままになっていることも多かったのです。
相続登記をしないと、第三者にその不動産が自分の所有であることを主張できないという不利益はあります。しかし、相続の場合、親が所有していた地方の建物や山林など、自分が所有する予定のない不動産が意図せずに自分の所有になるケースがあるため、第三者に所有権を主張できないデメリットはそれほどデメリットになっておらず、相続登記が進まなかったという現状がありました。
何代にも渡って相続登記をしないと、登記簿を見ても真の所有者が誰かわからない不動産が増加していきます。このような土地は「所有者不明土地」と呼ばれ、現状では所有者不明土地が22%にのぼるとされています。
高齢化社会の進展により今後ますます所有者不明土地が増加するおそれがあるため、所有者不明土地問題の解決のため、相続登記の義務化が図られたのです。
2 相続登記をしないとどうなるか
(1)相続登記義務化の改正法の内容
所有者不明土地の増加問題を解決するため、令和3年4月21日に「民法等の一部を改正する法律」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が可決・成立しました。このうち、相続登記の義務化については令和6年4月1日より施行されることになりました。
相続登記の義務化の具体的な内容は、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けるというものです。正当な理由のない申請漏れには10万円以下の過料の罰則もあります。
(2)相続登記を怠った場合の不利益
相続登記義務化により、相続登記を怠った場合はどのようなリスクがあるのでしょうか。相続登記義務化前は相続不動産の所有権を第三者に主張できないというデメリットがあるとはいえ、それ以外の不利益はありませんでした。一方、相続登記義務化後は、正当な理由のない申請漏れに対して10万円以下の過料が課される可能性があります。なお、「過料」とは刑事上の「科料」とは異なり、刑事罰ではありません。よって、相続登記をしなかったとしても前科がつくわけではありませんが、行政上の罰則を受けてしまうのです。
もっとも、相続登記をしなかったとしてもすぐに過料が課されるわけではなく、運用の透明性及び公平性が担保されることが求められています。具体的には、法務局において相続登記がされていないことが判明した場合、まず登記申請を促す催告をするものとし、正当な理由なく催告に応じない場合に過料が課されることが予定されています。
ただし、相続登記義務化の法律は遡及適用されることが決まっています。つまり、相続登記義務化前に相続が発生した不動産についても法律が適用されるということです。よって、令和6年4月1日以前に相続した不動産だからといって安心していると、法務局から登記申請を促す催告が来る可能性がありますので注意しましょう。令和6年4月1日以前に相続をした場合、令和6年4月1日から3年以内に相続登記をする必要があります。
3 相続登記の方法
相続登記を行うことが義務になりますが、相続登記といっても慣れておらず何をしたらよいのかわからない方も多いと思います。そこで以下では、相続登記をするための手続きの流れを説明します。
(1)遺産分割協議を行う
親がお亡くなりになった場合、親の財産は遺産となり相続人に相続されます。しかし、相続人が複数いた場合、相続財産はそれぞれの相続人の共有となります。例えば、親が土地を所有していたとして、相続人が子ども3人だった場合、その土地は相続により子ども3人の共有となるのです。
通常は共有名義のままですと使用しづらいため、「A土地は長男に、B土地は次男に」のように相続人間で遺産を分割する協議を行います。これを遺産分割協議といいます。遺産分割協議により、共有名義となっていた相続財産を各相続人に振り分けることが可能となります。
(2)相続登記を行う
遺産分割協議が終わったら、遺産分割協議の内容に沿って相続登記を行います。先ほども説明したとおり、相続によって不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならなくなりましたので、親が亡くなる等で相続が発生したら速やかに遺産分割協議を行い、相続登記を申請するようにしましょう。なお、相続人が一人しかいない場合、遺産分割協議は必要ありませんので、速やかに相続登記を行えば大丈夫です。
では、遺産分割協議がまとまらない場合や、そもそも遺産分割協議ができない場合はどうしたらよいでしょうか。親の相続財産が多く相続人間で争いがある場合や、遠い親戚が共同相続人となり連絡がつかないような場合もあります。そういった場合、「正当な理由」があれば3年以内に相続登記の申請をしなくても過料が課されない可能性はあります。しかし、「正当な理由」とは認められない場合もあります。よって、その場合は「相続人申告登記」をしておきましょう。「相続人申告登記」とは、相続登記の義務化の法律の施行により新たに新設される登記制度で、相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることによって、3年以内に相続登記の申請をしたことになります。3年以内に遺産分割協議がまとまりそうにない場合は相続人申告登記をしておけば、過料を課される心配がなくなるため安心です。
なお、遺産分割協議を行う前に、相続人全員が法定相続分の割合による共有状態で登記を行うこともできますが、あまりおすすめはしません。後に遺産分割協議で相続財産をそれぞれの相続人に分割する場合、もう一度登記をする必要があるからです。
(3)相続放棄や土地の所有権のみを国に返還することも可能
親の土地や山林を相続したものの、活用の見込みがない土地で、固定資産税等の管理費用がかかるだけなので相続したくないということもあるでしょう。その場合、相続放棄をすることが可能です。相続放棄をすればはじめから被相続人の相続人ではなかったこととなります。
しかし、従来の法律では、土地のみを相続放棄することはできませんでした。すなわち、土地のほかに現金や株などの相続財産があり、それらについては相続したいと思った場合、土地のみを相続放棄するということはできなかったのです。
そこで、今回の法改正では、土地を相続により取得したくない場合は、一定の要件を満たした場合に一定の負担金を国に納付することで所有権を国庫に帰属させることができるようになりました。
4 まとめ
令和6年4月1日から相続登記が義務化されることの経緯や罰則、登記の方法を解説しました。改正法施行以前の相続にも適用される点は注意が必要です。
相続登記が義務化されることにより、今後は相続や登記の相談が増加するものと思われます。登記手続きや相続にまつわる法律的な問題は専門的でありご自身で対処するには難しい場合も多いため、相続に詳しい専門家等へ早めにご相談することをおすすめします。