こんな場合の相続登記はどうしたらいいの?
1.持分だけの相続登記する
不動産を購入する場合に夫婦がそれぞれの自己資金を出しあった場合には、基本的には購入にかかった諸費用に対する出資割合にて、持分の登記を申請します。つまり、購入に3,000万円かかったとして、夫が2,000万円・妻が1,000万円をそれぞれ支出した場合には「夫持分3分の2、妻持分3分の1」で登記します。支出額以上の持分割合にすると超えた分は贈与とみなされ贈与税が課税される可能性もあります。
その後、時が流れて、夫が亡くなり相続が発生した場合の相続登記は、夫持分の3分の2だけを相続人に所有権移転登記(持分全部移転登記)をします。この場合に、相続人が妻と子供2人であった場合には、その3分の2の持分を妻が相続するようにして妻の単独所有の状態にするなど、その後を見据えた遺産分割協議が必要となります。
共有状態で登記してある場合には、将来売却することを考えた場合、共有状態よりも単独所有の方がなにかと手続きしやすい場合もありますが、相続人のうち妻が一番認知症になる可能性が高いなどの事情を考えれば、共有者の年齢や売却時期などの個別事情も考慮することも必要でしょう。2024年から法改正により相続登記の申請が義務化されることから、誰かが相続登記をしなければなりません。
また、持分の相続登記で気を付けなければならない点として、私道部分の持分やごみステーションの持分など、近隣の所有者と共有名義になっている土地についての登記を忘れがちです。自宅部分の土地建物だけではなく、近隣所有者と共有している私道部分などを忘れていて、将来売却する際に気づくことがあります。この際に相続関係が簡素であれば、追加で相続登記をしても間に合うとは思いますが、相続関係が複雑になり収拾がつかなくなることも考えられます。相続登記をする場合には、納税通知書に記載されている不動産の表示をよく確認するか、または不動産管轄の市役所役で「名寄帳」及び「評価証明書」を取得することで、その市区町村管轄で被相続人が所有する不動産を確認することができます。ただ、上記の書類でも共有になっている場合などの理由により記載がもれていることもあることから、公図などで確認することも必要なこともあります。心配な方は、不動産の登記についてプロである司法書士に確認するとよいでしょう。
2.相続した不動産に抵当権が残っている場合
被相続人名義の不動産を相続登記する際に、抵当権がついている場合には、この抵当権の債務がまだ残っているのかどうか(まだ返済が終わっていないかどうか)を借り入れしていた金融機関(登記簿に「抵当権者」として記載されている金融機関)に問い合わせます。そして、返済が終わっているという場合には、債務者の相続人であることを証明して、その抵当権を抹消するのに必要な書類を金融機関から受け取らなければなりません。ただし、被相続人が生前にすでに債務を完済し、抹消書類を金融機関から受け取ったにもかかわらず、紛失している状態であれば再発行できる書類だけを発行してもらい、登記済証(登記識別情報)など再発行ができない部分については別途異なる手続き(事前通知等)が必要となります。
順序としましては、金融機関に連絡して状況を確認後、通常どおり所有権について相続登記を申請します。その後、抵当権の抹消書類の状況に合わせて抵当権抹消登記の申請を行います。この場合に、金融機関が合併などですでに存在しない場合には合併後の承継会社を調べてそこに連絡します。
金融機関に連絡したものの、まだ債務が残っているという場合には相続人において返済した後に抵当権抹消登記をすることになりますから、その債務を誰が引き受けるのかを決めなければなりませんし、残債務額がかなり残っている場合には相続放棄を検討しなければならないケースもあるでしょう。
3.相続した不動産に根抵当権がついている場合
根抵当権は、抵当権とは異なり「借り入れのできる取引内容(債権の範囲)と枠(極度額)」を決めて、その枠内で借入返済を繰り返し、返済しても根抵当権は消えることはありません。やがて「これ以上取引しません」という状態になったら(元本確定といいます)、抵当権と同様の状態になり、それ以上はその根抵当権での貸し借りを継続することはできず、元本確定時点の債務を返済していくことになります。
根抵当権は基本的に自分で事業をされている方などが利用される融資形態ですが、被相続人が債務者となっており、この根抵当権を抹消せずにこの取引内容と枠を使用して相続人が引き続き金融機関との取引を継続したい場合には、通常通り①所有権の相続登記をした後に、②相続人全員を債務者とする債務者の変更登記をします、さらに③指定債務者の合意の登記をすることにより、引き続きこの根抵当権を③で指定債務者として登記された相続人がこの根抵当権を今後は利用していくことができます。ただし、この指定債務者の合意の登記は、相続開始後6か月以内に登記しなければ、もはやすることができなくなり、元本が確定します。すなわち、残っている債務を返済するだけになりますので、継続して利用することはできません。
上記のケースとは異なり、被相続人が債務者であったものの、もう根抵当権者との取引はなく、枠内に残っている債務も存在しないという場合には、抵当権と同様に所有権の相続登記をした後に、金融機関から根抵当権抹消の書類を受け取って根抵当権抹消登記を申請することにより、担保のない不動産にすることができます。
4.遺言がある場合の相続登記等
被相続人が生前に遺言を作成して、その内容で不動産を取得者する相続人を指定している場合には、遺産分割協議は不要であり、その指定された相続人が単独で相続登記をすることができます。また、遺言の中で遺言に書かれた内容を実行する人(遺言執行者)を定めることができます。相続人に「相続させる」という内容の遺言はその指定された相続人が相続登記をするだけのことなので、以前は遺言執行者がこの相続登記を代わりに申請することはできないとされていましたが、法改正により「令和1年7月1日以降に開始した相続については、遺言執行者が代わりに相続登記ができる」とされました。
被相続人が第三者に対して不動産を遺す旨の遺言がある場合には、遺言執行者が定められていればその者と不動産をもらう人の共同の申請形態による登記申請を行います。単独の申請はできません。遺言執行者が定められていなければ、相続人全員と不動産をもらう人の共同の申請形態となります。この場合は、相続人への登記ではないので「相続」ではなく「遺贈」となります。また、法定相続人はこの第三者への遺贈が自分の遺留分を侵害している場合には、その第三者に対して「遺留分にあたる金額を私に払ってくれ(遺留分減殺額請求といいます)」と請求できます。遺留分とは、法定相続人に最低限保証された相続分を意味し、「相続財産総額×2分の1×法定相続分」で算出します。たとえば、父が死亡し、相続財産総額が3,000万円の場合に、相続人が母と子供2人の場合、母の遺留分は「3,000万円×2分の1×4分の2(法定相続分)=750万円」となります。この750万円が侵害されるような第三者への遺贈がされた場合にはその第三者に対して「750万円を私に払ってくれ」と請求をすることができます。ただし、この請求ができるのは、「相続の開始およびその減殺請求(返してくれといえる)遺贈があったことを知った時から1年間」または「相続開始から10年間」のどちらか早く到来した時までとなります。その期間が経過すると、もはや請求することができなくなります。
今回ご紹介した相続登記はご自身で手続きするのが難しい部類に入りますので、司法書士に相談して手続きを進められるのが良いと思います。一度きりの相続手続き、失敗しないためにも、相続について経験豊富な当センターの専門家にご相談ください。